台湾原住民・アミ族の伝統に根ざしたロック・ミュージック!アウトレット・ドリフト(漂流出口)へのインタビュー

Aug-03-2023

アウトレット・ドリフト(漂流出口)は台東出身のトリオで、2000年代後半に結成された。メンバーはアミ族出身で、ベースとボーカルを務めるプタッド・ピハイ(布妲菈・碧海)、ドラムのリン・ケン(林肯)、そしてギターとボーカルの他にピアノや伝統的な打楽器も演奏するウーシャン・ピハイ(巫尚・碧海)。彼らの最新作『海女(Lady of the Ocean)』(Wind Music/2020年)は、2021年の金曲奨で「最優秀先住民族語アルバム」を受賞している。

アウトレット・ドリフトの音楽は、アミ族の音楽特有の要素があるだけでなく、キャッチーで魅惑的、そして詩的なロック・ミュージックでもある。海の美しさによって形作られた普遍的な音楽が感じられるのが魅力だ。今回はそんな彼らにインタビューを行った。



歌う時はいつも祖先の歌い方を思い出している

 

――バンドはどのように結成されたのですか?

リン・ケン「私たちはみんな親族で、同じ家系から来ています。私は彼らのいとこです」

ウーシャン「私はプタッドの兄です!2000年代後半にバンドを結成しようとしましたが、メンバーが見つからなかったので、家族を迎えたんです」


――どのように音楽を学んだんですか?

ウーシャン「音楽は私たちアミ族の儀式や文化に深く根付いています。幼少期からこれらの儀式に参加してきたので、音楽は私たちの日常生活の一部です。楽器の演奏は後になって学びましたが、遺伝子レベルで身についていたことなので、すんなりと受け入れられました」

プタッド「私たちは古いメロディやバラードを親や祖父母からたくさん学び、それらは私たちの音楽的な土台となりました。だから、楽器を演奏し始めたとき、再びその頃の感覚に連れ戻してくれたんです」


――アウトレット・ドリフトの音楽は「サイケデリック・ロック」と表現されることが多いですが、これは台湾では比較的新しいジャンルです。サイケデリックな要素があるのは、原住民のルーツと何か関係があるのでしょうか?

ウーシャン「アミ族の音楽は伝統的に、曲の構造が循環しているんです。それは私たちにとってサイケデリックな音楽に近いかもしれません。イントロからサビ、そしてエンディングへと展開していくような西洋音楽の構造とは異なります。しかし、循環といっても、常に異なる感情が湧き起こるんです」

プタッド「私たちの音楽はロックンロールだけではないです。何よりも、私たちの楽器と音楽は私たち自身の感情を反映していますし、それによって音楽性も複雑になります」


――アウトレット・ドリフトでは男女のツイン・ヴォーカルというスタイルを取っていて、歌唱に力強さを感じます。そして皆さんが子供の頃に聞いた、アミ族の古いメロディーやバラードから影響を受けているからか、旋律に美しさを感じます。これらのハーモニーをどのように作曲しているのですか?

プタッド「アレンジのアイディアは私たちの伝統音楽からも引き出されています。私は歌う時、いつも祖先の歌い方を思い出します。彼らはとても穏やかに歌うことがあり、それはまるで海の波のようです。その一方で、津波のように大きな強さを持って歌うこともあります!私は祖先の歌い方を模倣しているんです」

ウーシャン「音楽の創造は本当に妥協の連続です。私たちはそれぞれ思考も違えば、持っているアイディアも違うので、バランスのいいポイントを見つけなければなりません。それが例えば、曲のクライマックスであったとしても、各自のパートのバランスを考えなければいけないんです。なので、延々と爆音を鳴らしているわけではないですし、常にバランスを意識しています」

 

都市部に住む原住民の苦しみが表現されたデビューアルバム『逆游』

 


――デビューアルバム『逆游(Drowning)』(2015年)のサウンドは非常に暗く、重たい雰囲気が漂っています。当時はどのような感情で音楽を作っていたんですか?

プタッド「このアルバムを制作する際、私たちは都市に暮らすアミ族の第二世代の苦しみを表現しようとしました。私たちの心には多くの怒りと憤りが溜まっていて、その暗い気持ちが反映されています。

私たちは原住民というアイデンティティのために、都会での生活に孤独感を感じていたんです。この心の闇を音楽で表現したかった。ただ、これはあくまで当時の心境です。私たちは常に現在の気持ちを反映させて音楽を制作しています。それは時と共に移り変わっていくものです」

ウーシャン「当時、私たちは内面的な葛藤を抱えていました。私たちの身体は都市にいましたが、心は部落にいるような感じでした。そしてこの暗いサウンドに影響を与えているもう一つの経験は、海で溺れかけた時のこと」

プタッド「厳密には溺れたというよりも、ほとんど1時間、海に対して無力なまま戦っていた状況でした。私たちは皆、泳ぎは得意なのですが、海流のせいで岸から遠くに離れてしまったんです。とても危険な経験でした」

ウーシャン「このアルバムの台湾華語のタイトル『逆游』は、流れに逆らって泳ぐような意味合いもあります。私たちは海流に逆らって戦おうとしたのです」


――『塑膠袋裡的牙齒(Tooth In Plastic Bag)』という楽曲のMVはかなり陰鬱な雰囲気でしたね。

ウーシャン「この曲は祖母がよく話してくれた物語から着想を得ています。子供たちに『他の人のものを奪ってはいけない』と教えるための物語で、子供たちが近所の畑に入らないよう、畑には幽霊がいると教えられていたんです。アルバムの原点を表している曲ですね。これらは、原住民のコミュニティーから私たちに伝わる伝説と物語、そして感情なのです」

 

環境問題への意識も反映した、金曲奨受賞作『海女』

 

――その後リリースされた『海女(Lady of the Ocean)』では、海の中での復活が描かれていますね!そして美しいアートワークには、魚やアミ族の装飾を連想させる形があり、より民族的な雰囲気に浸らせてくれます。また、バッキングヴォーカルも特徴的でそのムードを高めています。

プタッド「このアルバムは転機を表しています。私たちはようやく母語(原住民の言語)を正しく使って作曲する方法を見つけました。これは非常に重要です。母語を使う時だけ、私たちは自分自身と調和を感じることができるんです。もう一つ重要なのは、私たちが現代の人間であるということです。だから、伝統的な要素とのバランスを見つける必要があるのです」


――そして表題曲のMVは青く壮大な海が映され、特別な雰囲気が漂っています。

プタッド「海は私たちの一部ですから」

ウーシャン「台東に戻った後に制作した最初のアルバムなので、そのような雰囲気が自然と表れました」

リン・ケン「私たちは海の近くで暮らしているので、作曲するときは常に心にこれらのイメージがあります。貝殻を楽しそうに集める人など、海で活動をする人々への想いがあります」


――この「海女」とは誰なのでしょうか?

ウーシャン「これはプタッドで、彼女の経験や個人的な物語のことかもしれませんが、それだけではありません。若い原住民たち全体を象徴してもいるんです。彼らは都市に移住し、グローバル化の影響を受けてアイデンティティと(原住民としての)生活スキルを徐々に失ってしまいました。彼らが元のアイデンティティを取り戻そうとする際に、多くの壁にぶつかる姿を表現したかったのです」

プタッド「女性はアミ族において非常に重要な役割を果たしています。彼女たちの部落での仕事は、しばしば海と関連しているのですが、徐々にその繋がりを失っています。これは現代社会の若い原住民に共通する状況です」

――『沙漠星球(Tafokay A Kitakit)』のような曲は、ほとんど抒情的にも聞こえます。どのような世界が描写されているのでしょうか?

リン・ケン「これは海面上昇や飲料水の徐々の消失など、私たちが生きる世界の反映です。人間が自分の環境で生きられなくなるなら、これまでやってきたことに意味があるのでしょうか?それがこの曲で表現したかったことです」

ウーシャン「この曲には『水が無いのにどうやって魚を取れるんだ、そのような状況でどうやって生きるんだ』という一節があり、環境問題を反映しています。これは世界中で存在する状況であり、多くの人に理解されることでしょう」


――最近、非常に多くのコンサートを行っているようですね。これは新しいアルバムなどの制作に取り組んでいるからですか?

ウーシャン「私たちの目標はコンサートのクオリティーに集中することです。時間があれば、新しい曲を作るかもしれません。けど、新しいアルバムは来春まで出ることはありません。とういのも、プタッドが自身のツアーを始めるんです」

リン・ケン「新しいアルバムは過去の作品とは異なるものになるはずです。私たちの音楽は常に進化していますから」

プタッド「私は作曲をし続けますが、自分にプレッシャーはかけません。まずはアイデアを共有して、それがどう発展するかみてみるところからですね」