「ロックンロールを心のティッシュペーパーにしよう」 ── Super Napkin インタビュー

Apr-18-2023

台北を拠点に活動する、ギター/ボーカル・Yau(小帕)、ベース・Weiting(黃尾)、ドラム・Steve Shih(施霖、以降 Shih で表記)3人で結成したバンド「Super Napkin」は、近年アジアでは盛り上がりを見せている台湾のインディ・ミュージック・シーンの中でも、独自の輝きをひときわ放つスリーピース・ロック・バンドである。

「厚手のティッシュペーパーが好きで、心の汚れを Super Napkin で拭こう」というあそび心があふれるプロフィールで紹介される Super Napkin は、結成八周年を迎えた。過去から現在まで、Super Napkin の背景には関わってきた広大な音楽の宇宙がある。シューゲイザージャンルを軸にしたもので、極限まで歪ませた幻想的な爆音を持ちながら、マイブラからヨ・ラ・テンゴ、ダイナソーJr.などの系譜とも言えるノイズサウンドのなか、ときに性急に駆け抜けるパンキッシュな表現もある。90年代 US/UK のオルタナティブ/グランジ・ロックの影響から生まれた木の枝のような台湾のオルタナティブロックと明確に紐づきながらも、そのサウンドの質感は明らかに、それら先達たちとは確かに異なっている。

2022年の夏、Super Napkin はミニアルバム『Subtropical Jet Stream』(亞熱帶噴射氣流)、『Sherry's Neighbors』(雪莉的鄰居)を2枚発表した。架空の生き物 ── 飛行章魚が展開した旅、及び野良猫の視点から見た世界という、二つのストーリーコンセプトで仕上げられた2作とも、相変わらず言葉選びの妙を味わえる。ひとつひとつのフレーズに聞こえる日常の些細な光景を耳に積みかさなると、どこか不思議な世界観が目の前に広がる。さらに近日、台湾最大級の野外ミュージックフェスティバル「Megaport Festival」に出演決定とのことによって、インディ・シーン代表のオルタナティブバンドの一つとして多くのロックファンに注目を集めている。

今回の Taiwan Beats では、Super Napkin が結成から現在に至るまでの経緯と今後の音楽活動について、メンバーの3人にじっくり話を訊いた。


 

Super Napkin のメンバー3人。 Yau (Vo./Gt.)Weiting (Ba.)Steve Shih (Dr.)(左➝右)


— まずは結成について伺いたいです。どのような経緯で結成されたんでしょうか?

Yau (Vo/Gt):2015年だったかな。当時、僕のバンドも Shih のも解散していたところ、新しいバンドを組もうとの話ができて、Weiting の加入にともなって Super Napkin を組んだのです。

 

— バンド名はどう決められたんでしょうか

Yau (Vo/Gt):Super Napkin を中国語で直訳すると、「スーパーのティッシュペーパー」ですね。スーパーヒーローのように、英語の「Super」のあとにつけたら何だか響きが強くなります。僕は、そのあとにつけてもかっこよくならないものを探したくて、こんな単純な考えを持ちながらいろいろな言葉で試行した結果、「Napkin」が最も似合う言葉でした。

Shih (Dr):いくつか名前も思いつけたが、ストーリー性が一番強いのに決めたのですね。

Yau (Vo/Gt):そうなんです(笑)この名前を成立させるため、僕は定期的に由来のはなしを作ります。最新のバージョンは、The Flaming Lips の名曲「She Don’t Use Jelly」に「そいつは鼻をかむときにティッシュを使わない。雑誌を使うんだ。」という歌詞からなのです。

— 2022年夏にリリースした『Subtropical Jet Stream』(亞熱帶噴射氣流)、『Sherry's Neighbors』(雪莉的鄰居)のプロフィールによると、収録曲は11の実話をもとにした11曲のミニアルバムですね。二作を同時にリリースするのも最初に決められたのでしょうか?

Yau (Vo/Gt):『Sherry's Neighbors』は2020年、コロナ禍による最初のステイホーム期間の真っ只中にできた作品です。当時アルバムジャケット担当のデザイナ・所属レーベルのスタッフ Sherry さんと Number Girl のカバー曲を演奏したきっかけで新しいプロジェクトを組んで、このミニアルバムをリリース予定だったが、コロナの影響と諸々事情でできませんでした。その後一年も経って、『Subtropical Jet Stream』ができた際、レーベル担当者のアドバイスによって同時にリリースすることにしました。

二作の曲とも、コロナ時期で周りの友人から聞いた日常の話をもとに書いたのです。今まで培ってきた生活が突然理不尽な理由で脅かされる恐怖を知り、苦悶の時期に人々が心の中に積もった気持ちを誠実に記録しようという思いも込めています。また、その時の僕は「亜熱帯」という言葉が気に入って、これから Super Napkin 新作のどこかで使おうと思ったところ、Sunset Rollercoaster のメンバーも僕と同じ考えがあるとのことを伺って、一時競争心が湧いてタイトルを『Subtropical Jet Stream』にしました。大した理由ではないです(笑)

※ 同年9月に Sunset Rollercoaster は『Subtropical South』(亞熱帶的南方)をリリースしました。

— なるほどです。制作では何か印象的なことがありましたか?

Weiting (Ba):「Wednesday Ballon」という『Sherry's Neighbors』の収録曲を編曲していたとき、今まで試したことのない特殊楽器を使いたいと考えながら、Yau はカウベルを入れたらどうかなというアイデアが浮かんで、そして deca joins のライブをサポートしている打楽器奏者・小杜に声かけました。最初は一曲だけでレコーディングしてもらったつもりだが、小杜は真剣にカウベルを叩いてる姿を見てとても感動していたので、リリースライブで『Sherry's Neighbors』全パートをお願いしました。カウベルを一生懸命に演奏してもらったのが最高です。

— 音楽面以外、バンドマネジメントなどの全般事務は Weiting が担当されていると伺いました。今年より所属したレーベルを離れてからの自主制作では、一番困難なのは何だと思いますか?

Weiting (Ba):活動の自由度を確保するため、Super Napkin はレーベルにいても自主制作の形にしていたので、仕事内容は今とはあまり変わりません。私にとって、難しいなのはビジュアルのデザインを決めるのと印刷事務のコミュニーケーションですね…。

Yau (Vo/Gt):僕らはいつも想像した情景を決めて、スタジオでサウンド面の調整をしながら、頭の中に浮かんできた画面に少しずつ近づこうという形に創作しています。音楽のイメージを相応しく表現できることは、デザイナーを選ぶのに一番なポイントだと思う。当時 Airhead Records に入った理由の一つも、レーベル所属のデザイナー Sherry の作品が好きだからです。

— 音楽の具象化に拘っていますね。その前のデザイナーはどう決められたのでしょうか?

Yau (Vo/Gt):例えば、アルバム『Diamond Shaped Hearts』の担当デザイナー Shape Chen は、僕が Mangasick の展覧会で会ったアートワークのイラストレーターです。僕は神聖かまってちゃんの音楽にハマっていた時期、彼女が開催した『SHAME SHAPE』という、神聖かまってちゃんのヴォーカル・の子へのオマージュ作品の原画展へ行ってきました。僕もメンバーたちも彼女の作風が気に入っていて、そのままジャケットのデザインを任せようと決めたのです。

『Diamond Shaped Hearts』タイトルの由来は、僕らの友人からインスピレーションをもらったのです。グラスのように脆くて心細い人なので、ダイアモンドの心になってほしいという意味も込めている。僕は Shape との連絡はほぼメールで繋がっていて、この友人の写真も見せたこもないです。会ったこともない人なのに、最後に完成したビジュアルに載せる女性の顔は、なんとその友人にそっくりです…。絵を見た瞬間に鳥肌が立ちました。不思議な縁を感じました。

Super Napkin - Diamond Shaped Hearts (2018)

— 運命を感じますね…。

Yau (Vo/Gt):こういう運命のところも入れてデザイナーを探しましたね。僕たち3人は本当にShape の絵が大好きです。でも、『Diamond Shaped Hearts』をリリースした翌年、 Shape Chen は他界なさりました。どれだけ好きでも、デザインをお願いするのが二度できません…それを思うだけで遺憾の気持ちが止まりません。

『Diamond Shaped Hearts』をリリースする前、二曲のデモを書いてきました。当時にこの二曲の編曲にも演出のクオリティにも満足できず、その後五年も経って、Airhead Records から離れて正式にレコーディングするのを決めました。ちょうどそのタイミングで、Shape の家族から「Shape の作品を今でも続けてこの世に見せることができて嬉しい」というメッセージを頂いた。5 年前の創作と、その時期に出会ったアーティスト —— 本当に運命を感じながら、Shape が残した絵作品をこれからリリース予定のニューシングルのジャケットにしました。


— 新作の情報を伺って嬉しいです。ニューシングルについて、詳しく教えてもらえませんか。

Yau (Vo/Gt):ニューシングルのタイトルは、「Coz I Love You」と「Painjoy」です。この二曲では、Weiting は初めてのボーカル担当で、僕ら過去の作品と違い感情が溢れるスローソングです。暖かい春にみなさんに寄り添える曲になれるだろう。楽しみにしていてください。


— 日本について、何か思い出がありますでしょうか?

Shih (Dr):Super Napkin は 2018 年の頃一度東京でライブしたことがあり、当時は si,irene、SPIRO などのバンドと共演しました。翌年も一緒にカセットテープをリリースしましたね。日本の友人たちはみんな親切で優しいです。またいつかライブしに行けたらと思います。

Weiting (Ba):そのライブが終わって、私と Yau は箱根へのプライベートスケジュールがありました。事前に機材を宅急便でホテルまでの配送をお願いしたが、私のベースが規定されるサイズを超えて配送できませんでした。仕方なくベースを背負ってホテルまで山登りました(笑)

Yau (Vo/Gt):ライブを見にくれたお客さんの友人から Super Napkin の中国語バンド名を書いた春聯(旧正月時期に家の入り口を装飾する縁起物)をもらいました。印象的でした。


— 最近、注目している日本アーティストはいらっしゃいますか?

Yau (Vo/Gt):吉村弘、平沢進、カネコアヤノ

Weiting (Ba):モトーラ世里奈、Fishmans

Shih (Dr):GEZAN

 

— もし日本の視聴者に Super Napkin の作品をおすすめするなら、何の曲をおすすめしますか?理由もぜひ教えてください。

Weiting (Ba):「Diamox Shaped Hearts」です。私はこの曲を演奏するとき、いつも何か目の前に浮かんでくる。Super Napkin 音楽の特徴を表現できる、聴き心地が良い一曲です。

Yau (Vo/Gt):リリース予定のシングル「Painjoy」です。

Shih (Dr):「Midnight Friends」です。ちょうどナンバーガールのカバー曲を完成してまもなく書いたものなので、少し日本のパンク元素を感じられると思います。この曲をきっかけに僕らを知っていただけたら嬉しいです。


インタビュー・テキスト:Keitei Yang

撮影:Miao Chia Shu (MIAO’s photography)

取材協力:造糕的人 badass cake