「ラップは思考の爆弾」今、台湾で最も尖ったラッパー、ピンクチェイン(PiNkChAiN 紅粉鍊人)へのインタビュー

Jun-04-2023

台湾のヒップホップシーンにおいて、真の異端者として浮上しているピンクチェイン(PiNkChAiN 紅粉鍊人)。台湾のヒップホップ番組『大嘻哈時代The Rappers』にも出演し、人気ラッパー、熊仔(Kumachan)のアルバム『PRO』にも参加するなど、今最も勢いのある若手ラッパーの1人だと言える。

彼のデビューアルバム『怎麼老是你(How Old Are You?)』は、中国語では「なぜいつも君なの?」と読むこともできる巧妙なもので、全38曲という驚異的なトラック数で描かれた「ヒップホップ・サーガ」で早くも多くのリスナーを魅了している。今回はそんな彼にインタビューを行い、その知られざる素顔に迫る。


台北では時におかしな瞬間が訪れ、それがアートになる

 

—自分について少し話していただけますか?

PiNkChAiN 紅粉鍊人:

「私の名前はピンクチェインです。台中市の出身です。台中のヒップホップグループ、イエロー・ヒッピー(黃嬉皮 YellowHippy)のメンバーとしてキャリアをスタートさせました。メンバーのSt.Gが私とTender Gを誘い、『Yup15』という曲を書いたことから全てが始まったんです。当時、Tender Gは大学を中退し、20歳で、私は18歳でした。最初の数年間はパーティー・コレクティブとして、台湾各地でパーティーを開催していました」


—台中市を「Taichill
City」(※1)と呼んでるのも面白いですね。同市からは何を思い浮かべますか?

PiNkChAiN 紅粉鍊人:

「台中と言えば、のんびりとしたイメージを持たれがちです。ただし、『のんびり』にもさまざまな側面があります。私が『Fatigued Ass(黑眼圈屁屁)』という楽曲で『Taichill city ain't nothing nice』(タイチル市は全く優しくない)と言ったのは、数年前、私がロックスターになろうと奮闘していたとき、台中市はそのような熱意をあまり受け入れていないと感じたからです。

トラップシティ(台北 ※2)とは異なり、台中市ではサブカルチャーは花開いていませんでした。ただし、台中市にもいくつかの罠が存在します。ギャングが多い街ですし、クールではありません。そして言われているほどのんびりとしていません」

※1 本来は「Taichung」だが「chung」を「chill(チル)」に差し替えた言葉遊びをしている

※2 Trap(罠)とTaipei(台北)をかけた造語


—台中と台北で音楽を作ることに違いはありますか?

PiNkChAiN 紅粉鍊人:

「もちろんあります!台北で音楽を作るためには、まず台中でしっかり準備をしなければなりません。というのも、台北にいると簡単に道に迷ってしまうんです。台北には新しいものがたくさんあるので。けど、ここには多くの友人がいますし、時におかしな瞬間が訪れ、それがアートになるんです」

 

音楽が良ければ、没頭できるはず。短い曲は才能の表現を制限すると思う

 

—デビューアルバム『怎麼老是你(How Old Are You?)』のリリースおめでとうございます!38曲収録という圧倒的ボリュームです。これは最初から意図していましたか?

PiNkChAiN 紅粉鍊人:

「最初はマネージャーに『25曲ほしい』と言ったのですが、彼らは『多すぎる!』と言いました。それでイライラしてました。私の大好きなアーティスト、Soft Lipaのアルバムには28曲もあるのに!アーティストの創造性を本当に尊重していないと感じました。それが残念でした。だから、彼らに教訓を与えたかったんです。25曲が多いと思うのなら、Soft Lipa以上に作ってやろうと思ったんです!

最近、楽曲の時間がますます短くなっていて、それが本当に気に入りません。お互いのために持つ時間が減っているんです。交流が少なくなっています。音楽が良ければ、その時間に没頭できるはずです。でも今の人たちは『時間がない』と言います。とても残念です。音楽を聴く時間を過ごすことは、最も基本的なことです。それを変えることはできませんし、変えるべきでもありません。短い曲は才能の表現を制限すると思います」




—このアルバムのメインテーマはなんですか?

PiNkChAiN 紅粉鍊人:

「全体的に、愛と精神性を中心に構成されており、ストーリーラインやタイムラインから成り立っています。一部はそれに従わないかもしれませんが、全体的にはストーリーとなるように楽曲を配列しました。実際に、各楽曲を個別の紙に書き、それらを移動させながら最適な順序を見つける、という方法を取りました。一種のビジュアルコラージュでもあり、非常に美しいです。私はこのアルバムの制作を去年の8月から始めました。ただし、2、3年前に作成された音源も収録されています。なので、過去3年間の創作物をまとめた内容となっており、非常に満足しています。また、このアルバムはGhost Mode Ent.のオーナーであるYoung Bに捧げられています。」


—本作では実にさまざまなプロデューサーとコラボレーションしてますよね。その結果、ヒップホップはもちろん、トラップやフリージャズ、スポークンワード、R&B、民謡まで、音楽性もとにかく多様です。プロデューサーたちとの制作プロセスについても話していただけますか?

PiNkChAiN 紅粉鍊人:

「まず、Spotifyに各プロデューサーのクレジットを入れようとしましたが、マネージャーが『考えなければならない』と言い、これに対しても不満があります。

楽曲『星際過度』は12の星座についての曲です。伝統歌『桃花過渡』がベースとなっています。このトラックはリリウム(百合花Lilium)のリードボーカルであるイーシュオ(林奕碩)がプロデュースしました。彼がその曲を録音している間、私はほとんどトイレにいて、そこで聴いていました。それは素晴らしかったです!

インストゥルメンタルもイーシュオによってアレンジされており、歌詞は彼と私の共同で書かれました。最初はこれを40分のトラックにしたかったんです。12の星座を持つ友人たちを集めて、詩やラップ、歌など、あらゆる形式のヴォーカリゼーションをフィーチャーしたかった。しかし、時間が足りませんでした」


—アルバムの大部分を占めているのはNon-Confined Space(非/密閉空間
3)のプロデュースによる楽曲でしたが、このコラボレーションについて少し話していただけますか?

PiNkChAiN 紅粉鍊人:

「そうです!『ChAiNMAN MUSIC』です!合計10曲あります。私はそれを『She Pure Beauty ChAiNMAN Big Band』と呼びたかったのです。メンバーにはジョセフ・マウロ(Joseph Mauro ドラム)、池田欣彌(ベース/チェロ)、シェ・ミンイェン(謝明諺 サックス)、ソニック・デッドホース(鄭各均 ギター)、そして私(キーボード)が含まれています。全員が平等に共同制作者だと感じていますし、楽曲のクレジットではフィーチャリング等の扱いにしたくなかったのですが、つまらない宣伝上の理由でこれを示すことができませんでした」

※3 ジャズサックス奏者、シェ・ミンイェン(謝明諺)がソニック・デッドホース(鄭各均)と組んだ電子音楽ユニット

※4 ピンクチェイン自身が定義するジャンルであり、フリージャズに似たリズミカルな即興音楽を特徴とする

※5  ChAiNMAN MUSICというフレーズは上のPVで初めに使われる


ラップとは「思考の爆弾」のようなもの

 

—「She Pure Beauty ChAiNMAN Big Band」という名前についてもう少し詳しく教えていただけますか?

PiNkChAiN 紅粉鍊人:

「She Pure Beautyはシュー・チュンメイ(許純美)のことです。十数年前にバラエティ番組を通じて注目を集めたアーティストで、私が思うに彼女は革命家です。しかし、メディアは彼女を道化師として描写しました。なぜなら、彼女はうつ病を患っており、台湾訛りも強かったからです。アルバムには『許純美慈母手中線』という曲があります。タイトルの『中線』は有名なバラエティ番組の司会者、ジャッキー・ウー(呉宗憲)を指しています。ジャッキー・ウーはシュー・チュンメイを精神病患者として嘲笑し、自身の番組に出演したんです。

このアルバムの制作中、その時の映像を偶然見つけ、それに腹を立てました。そこで、私はその映像の音声に音楽を加えて、連帯と支援の意思を表明したんです。そして驚くべきことに、この曲のレコーディング日がシュー・チュンメイの誕生日と重なったのです!」


—あなたのフローは本当にユニークです。流暢に中国語と台湾語、英語を行き来しながら、驚くほどのスピードと正確さで歌詞を届けています。あなたが影響を受けたアーティスト、そして、言語があなたの歌詞において果たす役割について教えてください。

PiNkChAiN 紅粉鍊人:

「私は最初から面白いフローのラップを聴くことが好きでした。キーク・ダ・スニーク(Keak Da Sneak)、E-40、T.I.、バスタ・ライムス(Busta Rhymes)、ケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)、大支(Dwagie)、MC HotDog、Soft Lipaといったアーティストたちに夢中でした。彼らはみんな独自のフローを持っています。そして皆、どこか風変わりでユニークです。ジャズ音楽も大きな影響を受けています!

言語について話すと、私はラップとは『思考の爆弾』のようなものだと感じています。昨日、私はジャズの会場を歩いていて、『即興演奏するときは攻撃態勢を取る覚悟を持つ』と書かれた看板を見つけました。まるで忍者のようです!そして、ラップも同じだと思います!それはあなたの思考の収束で、さまざまな場所を通り抜けます。それをどのように伝えるかが非常に重要です。

最近、私は台湾の伝統文化を研究し、音楽に取り入れる方法を探求しています。これは難しくも重要な課題です。残念ながら、台湾語は私たちの社会で消えつつあります。過去の政府はこれを奪いたかったんです。話すと罰せられる時代もありました!台湾語には中国話には存在しない独特の音調があり、それによってラップする際により面白い可能性が生まれます」


—歌詞に修正を加えることはありますか?それとも一度口から出たら固定されるのですか?また、論理に従わないものもあるのでしょうか?

PiNkChAiN 紅粉鍊人:

「修正はちょっと面倒です。できるだけ避けようとしていますが…。時々、フローの細部を再構築することがあります。リズムに合う単語選びを何度も繰り返します。ただ、基本的にはその瞬間に表現されるものが最も直感的だと信じています。ファーストテイクを尊重します!時には論理がないように見えることもありますが、それを再び見直してその論理を理解しようとします。自己発見のようなものです。それは無限ですし、重要です」

 

自分が怒りや悲しみを感じることを許してあげる必要がある

 

—音楽以外に、何があなたに創作意欲を与えますか?

PiNkChAiN 紅粉鍊人:

「OG 嚴です。臭豆腐を売っている愛らしいじいさんで、スタジオの向かいに住んでいます。いつも私に『ホームレスのための仕事は常にある』と言います。彼は私がいつも何もしていないで遊んでいると思っているので、仕事を探すよう説得するんです。非常に迷惑ですが、可愛くもあります(笑)。

最近、彼はマッチングアプリに夢中になっています!私たちは彼をこっそりと撮影したんです。彼の映像を密かに撮っています。収録曲『OG嚴論流浪漢』の1と 2は、彼が私に説教している最中の音声です」


—ヒップホップは台湾ではまだ比較的若い音楽コミュニティです。そこで「本物であること」(Stay Real)を目指す中で、あなたの挑戦や報われた点を共有していただけますか?

PiNkChAiN 紅粉鍊人:

「私がよく直面する障害は、人々が私の作品を当たり前のこととみなしていることです。そして、真剣に受け止めていません。私を笑いものにし、作品を本当に尊重していません。だから、時には荒れてしまいます。自分を抑えるよう努力しますが、最終的には爆発します。

最近、私は台中市に戻り、本来の自分とは何か、そしてアルバムリリースの後に何がしたいのか、何をすべきなのかを考えました。そして、考えれば考えるほど、担当マネージャーやプロデューサーに対してますます腹が立ってきました。彼は私のことを『恥知らず』とからかっていたし、リスペクトを感じません。気心が知れているからかもしれませんが、私はそれを冗談として受け取ることができませんでした。彼らは私を理解していないようです。

もちろん、いくつかの良い瞬間も共有しました。私たちは一緒にこの革命に取り組んできましたが、彼らは不満を言いすぎです。そして作品を尊重していません。

私はいつも自分自身に、怒ることを許しています。人々はなぜそれを怖がるのでしょう?皆、自分自身や他人の怒りを恐れています。『冷静に、冷静に!』と平和を作りたがります。なぜ冷静になるのですか?ここは冷静な場所ではありません!時には悲しいことがあるし、感じることを許して自分を許してあげる必要があります。泣くことも祝福の一つです!