台北出身・ニューヨーク在住のスー・ユーハン(蘇郁涵)が、プレイヤーとしてだけでなく作曲家としても刮目すべきことは、冒頭の<Hi-Tech Pros and Cons>を聴けばすぐにわかる。おっとっとと転んでしまいそうな奇妙なリズムがいきなり開陳され、聴く者はなにがこれから起きるのかと気を取られざるを得ない。中盤からスーのヴァイブが巧みにバランスを取り、そのいっぽうでマーティ・ケニーのベースが皆を左へ右へと揺り動かす。ふたりの役割は<Character>でがらりと変わり、サウンドを下支えするケニーの上でスーが舞う。華麗とはいえ、ときに我を出して迫ってくるのも聴き物であり、だからこそピアノのマット・ミッチェルがステージ上に引っ張り上げられたように感じるのだろう。

photo by Kuo-Heng Huang
曲のつながりはよく考えられている。続く<Naked Swimmer>では、そのままミッチェルが主導してスーとともに残響をサウンドの中心に持ってきて、みごとにひんやりとした音風景を出現させている。
<Didion>もまた普通ではない曲だ。轟音のごとき分厚いピアノのアルペジオ、それが分厚いことによりダン・ワイスのドラムスにスポットライトが当たるかたちである。だがそのピアノのミッチェルも下にずっと居座っているわけではなく、上に素早い触手を伸ばし続け、キャロライン・デイヴィスのアルトがさらに上を跳躍する。スーはといえば、かれらの成す音世界を横断しては光を撒き散らしており、じつに鮮やかだ。サウンドは三次元の立体に時間軸を足した四次元構造だと言ってよいだろう。
スーは別のヴァイブの魅力もみせる。<She Goes to a Silent War>では語りのあとイメージを膨らませてみせる。抽象的なサウンドだけではないのだ。<Siren>における現代ジャズ奏者としてのプレイはみごとであり、デイヴィスのアルトとのユニゾンなど快感だ。そして組曲<Liberated Gesture suite>からの3曲ではメンバーのさまざまな側面をみせる。<IV>でのワイスの高速にしてあくまで浮揚を維持するシンバルワークなど聴き物である。
アルバムの最初から感じていた構成の妙は、締めくくりの<Hassan’s Fashion Magazine>でも実感できて満足させられる。マラケシュのストリートにおけるコミカルな者たちをイメージしたという曲であり、気分はたしかにうきうきとした異国の旅先だ。
Yuhan Su - 《Liberated Gesture》
- Hi-Tech Pros and Cons
- Character
- Naked Swimmer
- Didion
- She Goes to a Silent War
- Siren Days
- Liberated Gesture II. Arc
- Liberated Gesture III. Tightrope Walk
- Liberated Gesture IV. Hartung’s Light
- Hassan’s Fashion Magazine
Text by Akira Saito 齊藤聡