「シューゲイザーに属しなく、新たな夢の地図を描きたい」 ── Manic Sheep インタビュー

Sep-08-2023

台湾のシューゲイザー・シーンに触れると、多くの人がすぐに Manic Sheep を連想するだろう。台湾では、シューゲイザー・シーンの発展において重要な存在とされる Manic Sheep。深い葛藤や憂鬱を音符で表現しながら、クリスタルのように透き通る女性ボーカルのウイスパー・ヴォイス、そしてボトムの効いた轟音。不安を打ち消す暖かさ、苛立ちから生む怒り…、心に近づいてくる様々な感情を吐露され、彼らの創作のみなもととなっている。すべての矛盾と衝突は、ぼんやりとした囁きの中に溶け込んで泡となる。おとなしい外見と凶暴さを併せ持つ、名の通りに「狂暴な羊」という印象を付けられて、まさにその字面にふさわしい存在。

オルタナティブ、シューゲイザー、ノイズポップ、国内外様々な音楽を昇華し、美しく透明感ある唄声もさらに引き立っている彼らは、2010年結成以来、海外バンドとして異例の2年連続フジロック出演に加え、香港 Clockenflap、アメリカ SXSW、カナダ NXNE など大型フェスへの出演も果たし、台湾に限らず海外で大きな評価を集めていて、日本でも何回もツアーを行った。活躍しながら、2017年にリリースされた台湾シューゲイズの歴史的名盤とも言われるセカンドアルバム『布魯克林(Brooklyn、ブルックリン)』を待望されたアナログ盤はついにリリースし、同時に日本公演も実現した。さらに、日本のシューゲイザー代表とされているバンド揺らぎのサポートバンドを担当し、ライブ中新作『Morning Fragment』 の収録曲も披露した。

今回の Taiwan Beats では、Manic Sheep 現在に至るまでの経緯、新作制作の心境とこれからの音楽活動について、メンバーの4人にじっくりと話を訊いた。

Chris(ボーカル兼ギター)、小白(ドラム)、楊浩(ギター)、阿毛(ベース)(左➝右)

 

※ メンバーの名前音読み:Chris(クリス)、楊浩(ヤン・ハオ)、阿毛(アー・マオ)、小白(シャウ・バイ) 。

— 『Brooklyn』アナログ盤リリースおめでとうございます!実際『Brooklyn』は2017年に発表されたアルバムで、五年ぶりとなりアナログ盤を作る理由はなんでしょう?


Chris (Vo/Gt):日本公演が決まる前に作曲しつつ新作のレコーディングの真っ最中なので、日本に行く前に完成してリリースツアーの名義で再活動を始めようというつもりだったが、かなり時間が必要だと気づいて間に合えなかったんです。同じ時点に日本公演を開催してもらったレーベルの方に以前から何度も『Brooklyn』の LP 化について声をかけられて、それでベストタイミングではないかとリリースを進みました。


小白 (Dr)
:2017 年リリース後以来、周辺のファンからも友人も『Brooklyn』のアナログ盤を入手したいを聴いて、僕自身もデザインを楽しみにしてたんですね。Joy(張芳瑜、Manic Sheep の担当デザイナー)のディスクデザインはもう素敵なので、LP 化のデザインも等比率で拡大して制作できたら最高だと思う。


Chris (Vo/Gt):『Brooklyn』をリリースした後、レコード制作について何回も聞かれました。その時点で私たちは音楽活動を少しずつ緩めて休憩したい時だから、リリースしちゃったら活動しなければいけませんね。それでかなり時間をかけて躊躇ったのです。


楊浩 (Gt)
:Joy に全てお任せ——これは僕らにとってはやはり最も効率的で安心なやり方ですね。『Brooklyn』がリリースされた頃 Joy はまだ Manic Sheep のメンバーですので、すなわち『Brooklyn』を最も近い距離で理解している、その中の一部分とされる人なのです。


小白 (Dr):とても大きなクッキーボックスをしたかったんですね。ディスクのデザインはクッキーボックスというコンセプトで、アルバムの外装を綺麗に開封できる方法がわからない人も多くいます。その外装を壊したくないから2枚目を買って暴力開封という選択肢であり、意外に成功なマーケティング手法になってしまいましたね(笑)

 

Chris (Vo/Gt):やった!もう一枚売れた!計画通りですね(笑)

Manic Sheep『Brooklyn』 レコード盤 (2023)

— Manic Sheep は作品のLP化が初めてですね。いかがでしょうか?

 

Chris (Vo/Gt):ディメリットでも言えないですが、レコードの大きさ、重さと材質によって音色も異なりますので、不確定性が高いんですが想像もしたことない音色体験をもらえるかもしれません。

 

— リリースに合わせて、Manic Sheep も五年ぶりの日本公演を行われ、北海道のフェス「しゃけ音楽祭」と東京公演を実現なさいましたね。久しぶりの日本観客のために何か特別な編成をアレンジしましたか?


Chris (Vo/Gt):EPの制作が仕上がってからすぐの日本公演なので、新曲をほとんどやりました。昔の Manic Sheep はギター2本とシンセ少しとの編成だったが、いまの編成だとシンセはManic Sheep の音楽にの存在感はかなり増加していて、それで日本のライブで初めて出演しました。観客にとって新鮮ではないかなと。


阿毛 (Ba) :海外でライブするのが初体験です。日本観客は優しくて礼儀もよく、それで文化衝撃でした。あまりいいライブをできなかったと思っているし、日差しが眩しすぎてエフェクターのライティングが見えなくなったトラブルも起きたし、それでも観客の反応もよかった。感動しました。

 

— 北海道でライブするのは初めてでしょうか。雰囲気はいかがですか?

 

楊浩 (Gt):今回出演の野外ステージは美術館隣の坂にあって、小さなフジロックを思い付かれてかわいいフェスなんですね。このフェスは海外アーティストが出演するのが初めてなので、主催委員会の方もわざわざ挨拶しにいらっしゃいました。印象的でした。


Chris (Vo/Gt):地方の音楽フェスに2、3回くらい行ったことありますね。だいたい地方の音楽祭はあまり海外アーティストがいなく、地元出身のアーティストが多く出る気がします。そして地方名物も会場でよく見られて、その時楽屋で食べたケータリングのお弁当も北海道産の食材で作られたそうです。上に食材の名前の産地など書いてあるメモがついてありました。こんな地方再生と観光を目的に開催したフェスのイベントには多く勉強になりました。


小白 (Dr)
:北海道名物の羊料理を食べました。ジンギスカンってものだそうです!美味しかったです。


 


— 今まで日本で多くのライブ経験のなか、一番印象的なライブはなんでしょうか?

 

Chris (Vo/Gt):やはり、フジロックの RED MARQUEE の出演権を獲得した時だったかな。台湾でもこのような規模のビジネスフェスティバルに出たことがなく、正式ラインナップになれることを一度も考えたことがないです。WEB投票で同時に競争していたアーティストは今でも日本で大人気のミュージシャンですし、出演権を取れることはまさに夢のまた夢です。

十年前初めての日本ツアーも印象的でした。その時は遊撃戦のようなやり方で無理やりにライブしに行って、全ツアー12日間にはライブを14本も出演しました。頭がおかしくなるくらい必死でした...。SNSが全く発達してない時だったし、日本で1番の宣伝方法は現地に行ってたくさんライブをまわって、Manic Sheep は日本にいるバンドかなと思われるくらいライブする。いまさら振り返るともう一度させてもらうなんてさすがに無理です。それは若い頃しか持たない衝動と強い精神力があったから実現できることです。


楊浩 (Gt)
:2017年に『Brooklyn』リリースの日本ツアーですね。初めて地方のライブハウスに行けて印象的でした。楽しい思い出もたくさん作れたんですね。


小白 (Dr)
:僕も。小型ツアーでしか感じられないことと見れない風景が多いですし、やはり観客も地域によって雰囲気が違うんですね。東京だと観客は特に好き嫌いを表現しないので、本当に楽しんでいたかといつも考えてしまいますね(笑)。


Chris (Vo/Gt)
:そう。そして翌日にTwitterで私たちのライブレビューを詳しく書いていただくこととか。それで心が温まったんです。ツアーの名古屋ライブも面白かったんです。その時の対バンは名古屋大学の在学バンドで、観客はほとんど軽音部の同級生と後輩だそうです。日本学園にしかない文化を体験できたし、学生食堂で名古屋の名物餃子と台湾風坦々麺も食べました。


小白 (Dr)
:当時予算の都合で飛行機ではなく機材車で移動しました。運転時間も結構長かったし、ツアーを主催して頂いたレーベルの代表も長距離の運転してもらったのが大変だと思っていました。


Chris (Vo/Gt)
:ツアー中ミュージックビデオの撮影で今で大人気のバンドメンバーに荷物を運んでくれたことまでも。同行してくれるスタッフがいなかったので、DYGLのメンバーたちは熱心に手伝ってもらったんですね。結局ほぼ半分くらいの素材は加地さんが撮ってくれました(笑)ありがたいです。



— シューゲイザーとタグされているが、多くのインタビューでもシューゲイズに属したくないとの話もしましたね。今の Manic Sheep だと、どんな音楽を目指したがっているのでしょうか?

 

楊浩 (Gt):今の Manic Sheep はシンセサイザーの比重は明らかに増加しており、リズムにも工夫を凝らしています。新しい曲も前のEPの流れを引き継いでいますね。レコード店での仕事経験から僕に多くの影響を与えました。音楽の好みもだいぶ変わっていて、ジャズやブラックミュージックなどを聴き始めました。制作期間中好きだった音楽ではギターの割合は非常に低かったし、加えて僕自身がギターの猛練習をするのが好きではないため、他に異なる試行をしてみたかったのです。


阿毛 (Ba)
:今回の収録曲のなかで3曲の制作に参加しています。Manic Sheep に最初加入したとき、僕もこのバンドできっと「シューゲイザー」というジャンルの曲を書くでしょうと思ったが、全くそうではなかった(笑)でも僕にとって、シューゲイザーというジャンルはすでに限界まで発展していたと思うから、Manic Sheepが伝えたいこと、表現したい音楽の姿はもっとあるはずです。なぜ彼らが今の音楽の方向性を選んだのか完全に理解できます。

小白 (Dr):最初、Manic Sheep もシューゲイザーやドリームポップといったフレームを設定しましたが、EPではそれに達しなかったことを新たな形で取り組みたいと考えている。僕が個人的に好んで使う直感的なリズムで、例えば落差草原 WWWW のようなもの:リピートが多く、宗教的、儀式的な雰囲気のある音楽——今回の EP に入れてみました。Manic Sheep に対して、アルバムは一応一貫のテーマを考えますが、Manic Sheep の内面を集めて繰り返した実験の集合体だと、それはEPですね。仕上がったのは最初の期待とは全く異なったが、それも試行錯誤の末に得られたものです。

Chris (Vo/Gt):結成された当初、シューゲイザーバンドということを意識的に設定したわけではなかったし、何曲はシューゲイザーの要素も入れたから定義されてしまったのでしょう。ほかに似てるバンドと同じような路線を進むのはずっと避けたかったのです。ちょうど Manic Sheep メンバーもさまざまな種類の音楽を聴いているし、ほかのバンドでも持ち掛けているメンバーも何名がいます。多様な音楽要素を組み合わせて、Manic Sheep という新しい地図を作りたいと考えました。

 

── 新作について話を伺いたいのです。今回はどんな作品でしょうか?

 

Chris (Vo/Gt):『Morning Fragment(朝のかけら)』というタイトル、4曲入りのEPです。前作から今までの期間に経験したことを表しているもので、ほとんどの発想は楊浩からメインのリフを先にもらって、それを私たちで再構築しています。過去編曲の習慣を意図的に破壊し、よく使っていたフレーズや手法をすべて取り壊して再構築するようにしました。

Manic Sheep『Morning Fragment』(2023)

視聴リンク:https://reurl.cc/GAMnox


楊浩 (Gt)
:日本公演が決定後、すぐ収録日程も決めました。僕はだいたい新曲のモデルを書いたのですが、実際に編曲作業を始めるとものすごく混沌の状態になり、すべては最初とは違うものに変わってしまいました。その結果、自分が作ったものの正しさを常に疑問を抱えた。本当に望んでいるものとは全く違うものを生んでしまうのではないかとずっと心配していました。Chris の仕事は全てのコンテンツをまとめることなので、その時恐らくとても辛くなったと思います⋯。



—  Manic Sheep は海外のライブ経験が多く、海外へ音楽活動の発展では成功の一例と思われています。海外での発展を望むミュージシャンに対して、何かアドバイスはありますか?そして、最初の一歩として最も重要なことは何でしょうか?

 

Chris (Vo/Gt):勇気、時間、資本はもちろん、あとは意志力が不可欠ですね。みんなは独自の状況を抱えているし、始めても挫折することもするかもしれません。意志を揺れなく、心の状態を安定させることが大切であり、長く活動できることが一番です。


小白 (Dr):海外で活動するのは冒険みたいですね。最初の1、2回行っても成果を全く見えないかもしれないんだが、これから続いて挑戦しようという想いが大切だと思います。

 

— Manic Sheep これからのリリースプランと日本のファンたちに伝いたいことは何ですか

 

Chris (Vo/Gt):いつも、暖かく応援して頂いてありがとうございます。私たちが休んでいるとき、日本の皆さんは待っていることを思い出すたびに、それが私たちを前に進ませる動力になります。

 

楊浩 (Gt):言葉の壁を超えて理解してくれていることはとても温かいです。心から感謝します。

 

阿毛 (Ba) :ライブを見に来てください。そして僕のポケモンGOを追加してほしい、一緒にポケモンGOの世界で遊びましょう。

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インタビュー・テキスト:-

撮影:Miao Chia Shu (MIAO’s photography)

取材協力:玉虫画室