台湾のSSW・持修(Chih Siou)インタビュー「音楽が自分自身を表現する一つの言語」

Jan-05-2023

写真提供:浮現祭日本篇 by SARU (SARUYA AYUMI)

 

台湾のSSW・持修(Chih Siou)が、2022年11月18日(土)開催された音楽イベント「浮現祭 Emerge Fest.」にて自身初となる来日公演を行った。楽曲「Imma Get A New One」を台湾の音楽プラットフォーム「Street Voice」で発表するや否や、三週連続で一位を獲得し、台湾現地の音楽ファンの間で話題を集めた。その勢いはとどまるところを知らず、2020年の第31回「金曲奨(Golden Melody Awards)」では1stアルバム『房間裡的大象(部屋の中の象)』でベスト新人賞を獲得するに至った。多くのファンを集めつつ、歌詞は、語りかけるような話し言葉で綴られており、楽曲そのものが持つ美しさとともに独自の感性を体現している。

Taiwan Beats JPでは、彼の初来日を記念してインタビューを敢行。来日の忙しい時間の合間を縫って、初来日公演を終えての感想と彼というミステリアスな人物の独特の感性の正体の一端に触れた。

 

初来日公演を終えて

 

―11月18日に開催された音楽イベント「浮現祭 Emerge Fest.」にて、持修さんは初の日本でのライブとなりました。まずは率直な感想を教えてください。

 

とても楽しかったです。一番の感想としては、日本と台湾の観衆は違うと思いました。台湾の観客は落ち着いている感じがありますが、今回の日本でのライブは観客も身体でリズムをとったり、手拍子をしてくれました。サポートメンバーのドラマーもギタリストも、日本の観客からの熱気を感じていたと言っていました。ライブというのは、やはりそのアツさやバイブスがないと舞台上と観客がリンクできないので、そういう意味では、今回のライブでは会場が一つになったというのを実感できたと思います。とても素敵な雰囲気でした。

 

―なるほど。他の演者とも交流はありましたか?

 

自分はあまり他の演者と能動的に話すタイプではないのですが、終演後も音楽を通じて他の演者と話したりして、友人になれた気がしてとても嬉しかったです。台湾ではライブが終わった後は自分の出番が終わるとすぐ帰ってしまうことが多くて他の演者と交流することが少ないんですが、日本ではそうじゃないと聞いていましたし、今回は出番が終わった後に実際に交流できてよかったです。また、僕の誕生日が近いこともあって、Cody・Lee(李)はポケモンのカードセットを、会場の美術の方もピカチュウの人形をプレゼントしてくれました(笑)。

 

―日本ではライブ以外はどこか遊びに行ったんですか?

 

ライブが終わった後はバーでカラオケをしました。僕は普段からカラオケに行ったとしてもほとんど歌わない方なのですが、当日は近くの席の知らない人と一緒にアニメ「SLAM DUNK」の主題歌など歌って大盛り上がりで楽しかったです。他には、お台場のチーム・ラボにも行きました。僕はアートに造詣が深いタイプではないのですが、チーム・ラボではたくさんの刺激を受けましたね。仕事的な話で言えば、他にはSIRUPの作品などを手がけるプロデューサーでもあるA.G.Oさんを訪問して、彼とのセッションの中から曲も生まれました。セッション中も、A.G.Oさんがずっと「ヤバい!」と叫んでいて大盛り上がりでした。機会があったら、この楽曲もいつか発表できるといいですね。

 

持修の音楽ヒストリーと独自の感性

写真提供:浮現祭日本篇 by SARU (SARUYA AYUMI)

 

―持修さん自身は普段どんな音楽を聴くんですか?

 

小さい頃からエミネム、50 Centなど欧米のヒップホップなども聞いて育ちました。普段はクラシックからPorter Robinson、Snail's House、Kawaii future bassなどの電子音楽、バンド音楽、アニソンなど幅広くなんでも聴きます。日本の音楽だと、アニメソングやシティポップのプレイリストなんかもよく聴いています。音楽において歌詞というのも意識して作られるものだし、重要な役割を果たしているから理解する必要もあると思うんです。日本の音楽のヴァイブスがとても好きではあるのですが、そういう意味では、やはり日本語の歌詞は分からないので、好きな曲をより理解できるようにしたいと思って、最近は日本語を勉強しています。一番好きなのは『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』の劇中挿入歌「Komm, süsser Tod」ですね。とても幸せな気持ちにもなるし、同時にとても悲しくもあって大好きなんです。

 

―こだわりを持ちながら様々な音楽を聴いていらっしゃるんですね。その中でも、特にシンパシーを感じる音楽やミュージシャンなんかもいらっしゃいますか?

 

Jojiさんですね。Jojiさんは日本とオーストラリアのミックスの方で、元YouTuberでコメディアンでもある人なんです。僕自身、昔から彼のコメディ系の動画を見ていたんですが、彼が音楽活動を始めるととても陰鬱な曲を作ったりする方で。それが、二重人格のような感じもするのですが、そういった彼という存在に共鳴を感じています。というのも、僕が好きな創作のアプローチとして、一つのものについて一つの面だけを見ないということがあるんです。一つの感情をとっても、色々な見方がある。楽しい部分もあれば辛い部分もある。この矛盾を考えていくのが楽しいんですよね。言ってしまえば、僕自身も矛盾している人間だと思っているんです。そういった意味で、コメディもやれば、陰鬱な楽曲も作るJojiさんにシンパシーを感じているんです。他には、ギタリストのジョン・メイヤーも高校生の頃から好きでした。高校生の頃は、毎朝彼のアルバムを一枚聴き終わらないと家を出たくなかったので、しょっちゅう遅刻していました(笑)。

 

―持修さん自身は小さい頃から音楽が好きだったんですか?

 

昔は聞いてこそいましたが、生活の上で必要なものではなかったかもしれません。高校生の時から音楽をやりたいなと思ったんです。僕の高校(台湾師範大学附属中高)は音楽の聖地と言ってもいいくらい、バンドをやっている同級生が多かったんです。バンドのジャンルもそれぞれ違って、あの場所で与えられた影響はとても大きかったんじゃないかなと、今振り返って思います。僕自身、他の人と交流するのが得意ではないのでバンドはやらなかったし、当時は絵の作家になりたかったとも思っていたんですが、やってみると音楽の方が自分に合っているなと思って。17歳の頃からアコギで作曲し始めました。日本公演でも演奏した「到底你是要不要我啦」は当時作った曲なんです。

 

―当時はいきなり作曲しようと思ってできるものなんでしょうか? 私のイメージでは、好きな曲をコピーしたりして、曲の構成などを理解しながら学んで行くものだと思っていました。

 

アコギのコードの押さえ方一つ一つなどもネットで検索したり、YouTubeを見ながら勉強しました。僕にとって、作曲することは何かを学んでからやり始めるということではなく、他の音楽を聴いて、自分も音楽をやりたいなと思って始めたようにもっと自然なことだったんですよね。

 

―持修さんの楽曲は、幻想的な部分がありつつ複雑な部分もあったりして、その複雑性には自身の内面が表れているんじゃないかと思っていました。どう作曲しているのかとても気になっていました。

 

今ではギターでの作曲はもちろん、サンプル素材を使ったり、ビートから手を付けるなど様々なアプローチを試しました。でも、2ndアルバム『!!!!』を完成させて以降の最近は新しいことを学びたいんですよね。これまでは五線譜も読めなかったし、聴いたものからのフィーリングに依るものも多かったんですが、もっと専門的な知識や技術を身につけたいなと思って、日々勉強しています。ドラムも勉強していて、学んだものを楽曲に盛り込めるようにしたいです。また、僕には音楽を作る上でライブもとても意識していて。作曲、編曲、ミックスなどあらゆる段階で、頭の中にライブの場面を浮かべています。各段階のアプローチで、スタッフやプロデューサーらと話し合いながら曲のアプローチも変えていくと、頭の中に浮かぶライブの場面も変わっていく。それが楽しみなんです。

 

―作曲に対するインスピレーションなどはどこからくるのでしょうか?

 

今までは、日常生活にある出来事や自分が表現したい感情、例えばラブソングを書くならどんな恋愛がしたいかなど、想像から来る物が多かったです。時にはアニメから来ることもありました。しかし、そういうアプローチだけでは物足りないなとも思っていて。書きたいものがあるなら、似たようなことを実際に経験したり体験して、曲のクオリティをもっとあげたいなと。

 

―そういったリアリティさと、自分で学んだ音楽の技術や知識面も併せて曲のクオリティを上げていきたいということですね。アニメソングからもインスピレーションを得ているとはびっくりです。

 

楽曲「愛了愛了」がそうで。日本のアニメ『彼女、お借りします』から得たインスピレーションで作りました。実は、僕は映画など実際に人が出ている作品はほとんど見ないんです。普段観るものはアニメや欧米のカートゥーン系が多くて、人が出るいわゆる実写作品はホラー作品しか観ないんですよ。実写の映画だと人と人の感情の距離が近すぎる気がしてしまうんですが、ホラー作品だと実際の人が出演していないとその恐怖を感じられなくて。

 

―でも、先ほどの話にあった体験などをさらに重視していく姿勢と実際の人が現れる作品はあまり観ないというのは一つ矛盾でもありますよね。映画は登場人物と感情がリンクしないと楽しめない気がします。

 

そうなんです。だから自分を変えていこうと思って、最近は恋愛映画なんかも観てみました。たまたま、なにを観るのかも知らされないまま連れて行かれたのは「ラ・ラ・ランド」でした。最近だと自分で意図的に観ようと思ったのは、「きみに読む物語」でした。王道のラブストーリ―作品ですが、とても傑作だと思いました。実際に見てみると、特に違和感もなくストーリーに没入できました。

 

―最新の楽曲「時尚!」は「台北ファッションウィーク」のために作られた楽曲とのことですが、持修さん自身は美に対する意識を持っていますか?

 

実は僕自身は、プライベートでは服装などに拘りがないタイプなんです(笑)。僕にとって美しさというのは、例えばモデルのような外見だけじゃなくて、内面的なものに惹かれるものだと思っています。最近だとJojiの楽曲「Die For You」は、一番美しいと感じました。自分にとって美しさというのは見るものではなく、意識する以前に感じてしまうものだと思っています。

 

―そうなんですね。「美男子」のイメージがあるので、「時尚!」を聞いた時に持修さんの美が表現されていると思いました。

 

プライベートではおじさんみたいな生活をしていますよ(笑)。ただのオタクです。見た目ではそう言われることもあるかもしれませんが、中身は50歳です(笑)。

 

 

音楽が自分自身を表現する一つの言語

写真提供:浮現祭日本篇 by SARU (SARUYA AYUMI)

 

―持修さんの音楽活動の目的としては、自身の内面を表現するために行うんですか?それとも聴いた人に何かを伝えたいという思いもあるんですか?

 

自分にとって、音楽を通して言いたいことを言えるというのが大きいと思っています。なので、自分の内面を表現するため、ということでしょうか。僕自身は普段から自分の内面を表現できる人間ではないと思っているんです。普段からとても臆病で感情を表さない方ですし。でも、音楽をやるときだけは、嘘をつかず僕の言いたいことを言うことできる安全な場所だと思っているんです。1番の基礎となっているものは自分の感情や経験というものだと思います。また、僕自身にとって音楽は矛盾をはらむ自分自身という存在の成長を記録したものでもあって。あまりお喋りなどが得意ではない自分にとって、それを聴いた人が共有して共鳴してくれるというのは嬉しいことですし、音楽が自分自身を表現する一つの言語になっているような気がしています。

 

―なるほど。

 

僕にとってはライブが一番重要なものなのですが、楽曲の中に嘘があるとすればそのライブ自体に100%のめり込むことができず、非常に苦痛になってしまうのが嫌なんですよね。音楽を通して正直でありたいと思っています。

 

―2020年に「金曲奨」ではベスト新人賞も獲得されたりと、順調に活動できていると思いますが、これからの活動の目標などありますか?

 

昔はどの賞を受賞するかなどとても気にしていました。でも、少しずつ理解してきているのは何を受賞するかというのは実は運に依るものが大きいんだということで。音楽というものは主観的なものですよね。審査員だってそれぞれ好きなジャンルなどもあるので、点数や順位などがつけられるものではないと思うんです。同時に、自分は何かに勝ちたいというよりも負けることが怖いんだとも気付いていて。音楽を通して他の人に自分を好きになってもらう方が大事だなと思っています。でも、受賞できるならできた方がもちろんいいんですけどね(笑)。

 

スペシャル企画「持修の目に映る日本の風景」 

今回Taiwan Beatsでは、初来日公演を行った持修に「写ルンです」を渡して、彼の東京での様子として自身で写真を撮ってもらった。感性豊かで、ユニークな持修の目を通した東京の風景を見てみよう。

 

1)今回の来日では、スタッフメンバーと一緒にteamLabの展示を見に行ったそう。展示会場の鏡に映った持修自身の姿。

 

 

2)東京の街を練り歩く、スタッフチームの全員。今回撮ってもらった写真ではチームメンバーを主体とする写真が多く、持修がメンバーを大事にしているのが伺えた。

 

 

3)渋谷にある精算機。撮影した理由は「自分もよく書いている落書きがあったから」だそう。

 

4)teamLabの展示で撮った一枚。鮮やかな光と影がぼんやりと。

 

5)注文したカレーを待っているスタッフ。