M@M Records、色褪せないレコ愛を守り続ける21年

Oct-26-2020

台北のファッション発信地といえば東区エリア。MRT忠孝敦化駅周辺は大通りに面した百貨店や大型店から路地裏のセレクトショップまで多彩な店舗が密集し、賑わいを見せている。そんな喧噪から少し離れた場所に位置する「M@M Records」は、台北で15年以上のキャリアを誇るDJ Mykal a.k.a. 林哲儀(リン・チェ・イー)氏がオーナーを務めるレコードショップだ。

音楽やファッションに造詣が深く、その知識と経験からレコード会社のマーケティングやファッション雑誌の寄稿、プロデュースなど、多岐に渡り活躍している林哲儀氏。これまでにTHE PRODIGY / THE CHEMICAL BROTHERS / KORNと共演を果たし、台湾TOP DJとして東京のクラブシーンとの交流も深い。Pilot Kとのデュオ「MKP」でFPMの作品リミックスを手掛けた経験もある。

クラブミュージックに対する深い音楽愛が伝わってくるレコード店「M@M Records」、中国語の店名は「四樓唱片行」はその名の通り、商業ビルの四階にある。都会の喧騒を忘れさせてくれる穏やかな空気が流れる店内では、ファッションやアートなど、音楽と密接にリンクするカルチャーを発信し続け、テクノ・ハウス・トランス等のダンスミュージックをトレンドに合わせて多数取り扱える。今年で21年を迎えるM@M Records、これまでの経営と道のりについて、林哲儀氏にじっくり聞いた。

──M@M Recordsは今年で21年目ですね。どのような経緯でオープンしたのでしょうか。

M@M Recordsは1999年に始まりました。当時台湾でレコードを購入できる場所は少なく、ダンスミュージックのリミックス曲がシングルでリリースされることも滅多にない。その時すでにDJ活動をしていた僕自身にとって、そこにニーズがありレコード店に憧れを抱いていました。DJ以外にもレコード会社に勤務していた時に音楽評論を書き始め、さらにレコ屋の経営を通じて、自分が好きな音楽をしっかり伝えられるようになったと思います。

僕はよく日本のレコードショップを巡ってレコードを探すのですが、現地のレコード店は規模に関わらず、経営者やバイヤー、スタッフがレコードに込める思いを感じさせてくれます。彼らはレコードを売るだけではなく、自分が良いと思う音楽を伝えてくれるんです。その経営方針に共感して自分でもレコード店をオープンすることにしました。

仕事の関係でよく香港と日本へ行きました。そこには魅力的なレコード店がたくさん点在していて、大体はアパートの2、3階以上に隠れています。その影響を受けてこういう店に憧れるようになったのかもしれません。僕は当時、まだ会社に勤めていたので、レコード店の開店は自然と退勤後の時間帯になりました。東区の夜、ゴールデンタイムに路面店を借りたら経営的にも負担が大きいと思って、この四階にオープンすることを決めました。

──M@M Recordsをオープン以来、一番の困難は何でしたか?

ちょうど2000年代に入る時期だったんですね。音楽産業が斜陽と言われたとき。でも僕にとってはそんなに心配する必要がなかった。この店の収益は、僕の唯一収入ではないので経営困難は一番大きな負担ではありません。当時の業界においてディスクメディアの販売不振が大きな課題でした。

ROKON(滾石電音)を設立する為に3年間閉店し、去年4月に経営再開したこの1年間、困難と言えるのは「みんながレコードをディグらない」ということかもしれません。半分以上の顧客はネット通販からアクセスしてきます。県外の方もちろんいらっしゃるんですが、大体、台北の方が利用している。MRT隣駅まで郵送したこともあります。ネットで注文した商品を取りに来たら帰っちゃうとか、お店に足を止めない人が多いんです。
 
ストリーミング時代に突入し、リスナーの変化が明らかに売上に反映されています。ストリーミングで音楽を聞いてから、気に入ったらCDを手に入れるパターンが定着してきました。そういうリスナーはわざわざレコードショップへ行くことにもあまり興味がなさそうですし、「レコ屋に行けば好きな音楽見つけられる」というディスク時代の僕らのロジックから離れています。全体的に見ると状況は2000年代初頭より良くなるとは言えないようです。

店主 DJ Mykal a.k.a. 林哲儀。

──この状況に対して、何か改善策がありますか?

僕がこの店を再オープンした理由は、音楽産業の第一線に戻りたい、まだディスクやレコードを購入している音楽好きな人々に接触したいと思ったからです。自分の好みを理解する一番の近道は、自分で聞いて、理解して、交流することだと、僕はそう思っています。地味だけど、今年から僕も紹介文章やSNSでレコ情報をシェアし始めました。できるだけ店に来てくれる方々に声をかけて、好きそうな音楽を推薦しています。

セレクターの位置に戻ってきて、自分が音楽を聴く「状態」にも戻れた気がします。ROKONレーベルを経営してた3年間は、少し怠けものになってしまって、新しい音楽を聴くことを先延ばしがちになり、年末まで聞かずに積んでおくことが多かったんです。あとは、受動的な情報取得を避けています。ストリーミングアプリが推薦したものや、フィルターバブルの中で浮かんでくる音楽ばかり聞くと、音楽の分野も狭くなる。単純な音楽愛好者として、また音楽従事者としてもそれは良くないことです。

──日本にはさまざまなレコード店があって、M@M Recordsのように独自の特色を持つ小さなレコ屋がたくさんあります。その風景は台湾のレコ店と比べてどう思いますか?東京の穴場スポットも教えてください。

マーケットの規模に大きな差があります。タワレコやHMVのようなレコードショップチェーンが台湾にはもうないから比べようがないのですが…。でも僕は、大型チェーン店よりディスクユニオンと個人経営のレコード店の方によく足を運びました。ディスクユニオンは様々なテーマ音楽館があって、僕はいつも新宿と渋谷にあるクラブミュージックの専門店へ行っていました。個人経営のレコード店は、下北沢 Jet Set Recordsや代官山 bonjour records、渋谷のハウスミュージックをメインにしたショップTECHNIQUE、マンハッタンなど。各店のスタイルがはっきりしていてジャンルの分類もわかりやすいです。

台湾でまだ経営を続けているレコ屋はほとんどが独立系ですね。東京のレコ屋みたいな雰囲気も出しているんですが、音楽の分類が少しぼんやりしている。どうすれば台湾独自の雰囲気が表現できるのか、それが僕らにとっての課題だと思います。

──新型コロナウイルス感染拡大の影響で世界の音楽シーンも激動する2020年。パンデミックの拡大で、ライブハウスとレコ店が存続危機に瀕しています。その反面、景気回復している台湾、コロナ禍以降、どのようにして最新の音楽情報を入手できますか?

大型レコ店の通販サイトやネットメディアを見ます。よく参考にするのはmikkiという日本のメディアと、ダンスミュージックを多く紹介する「ele king」、最近、台湾特集をしてくれた「music magazine」などの音楽雑誌も定期的に輸入して購読しています。

──日本の読者さんに最近おすすめの作品を教えて頂けますか。

《春化作用 Vernalization》榕幫
台湾出身のHIP HOPグループ榕幫(ローン・バン)の最新作、オススメです。
現在主流のトラップミュージックではなく90年代のヒップホップ感が溢れる一枚です。

《Bronson》Bronson
Bronsonはオデッザとゴールデン・フィーチャーズによるユニット。バイク乗りながらSpotifyでこのアルバムを初めて聞いた時、すごい鳥肌が立った。90年代のダンスミュージックから現在最新のEDM要素までが綺麗に繋がっています。ダンスミュージックの黎明期から現在までを経験したことある人は必ず共感する。素敵な一作です。

《DIFFERENCE》Banvox
ダンスミュージック業界で賞賛されている日本のProducer Banvoxの最新作、HIP HOPコンセプトアルバムで9人のゲストMCとコラボレーションしています。MCが入っていてBass Musicを新しくする面白い作品です。

林哲儀からオススメの作品。Bronson《Bronson》(左) /
Banvox《DIFFERENCE》(右上) / 「榕幫」《春化作用》(右下)

M@M Records
四樓唱片行

住所: 台北市忠孝東路四段112號四樓之3
連絡先:(02) 8771 5688
営業時間:16時~21時(不定休)
アクセス:最寄駅 MRT忠孝敦化駅
公式ページ:https://www.facebook.com/groups/511523992264663/


取材・文字:Keitei Yang
撮影:whosdandan