台湾に2000人規模Zepp New Taipei設立、日本人責任者に訊く台湾ライブハウスシーンの状況とZeppが進出する意義

キーワード

2020年7月31日、台湾・新北市のショッピングモール「宏匯広場 HOUHUI PLAZA」8階にライブホールZepp New Taipeiがオープンした。

Zeppホールネットワークは今年2020年に入り、日本国内でも新たにZepp Haneda (TOKYO)、KT Zepp Yokohamaが開業していた。国内のみならず海外展開もしており、Zepp New Taipeiは単独展開として、初の海外営業をスタートしたことになる(2017年開業の[email protected] SingaporeはJV解消のため現在営業していない)。Zepp New Taipeiは、1階オールスタンディング=1871人、2階=固定シート291席とスタンディング83人、合わせて最大2245人を収容できる、台湾でも珍しい中規模なライブ会場となった。7月31日には、こけら落としとして今年度の金曲賞(Golden Melody Awards)にもノミネートされている話題のラッパー・歌手のJ.Sheonがパフォーマンスを披露、アジア音楽業界にZeppが知れ渡った。

今回、Taiwan BeatsではZepp New Taipeiの支配人で、株式会社Zeppホールネットワークの海外運営事業部チーフプロデューサー兼ホール開発事業部プロデューサーの本多真一郎氏にインタビューを敢行。今回のZepp New Taipei開業までの経緯や、台湾でのライブハウスシーンの話を伺った。

ミュージシャンと芸能の中間層が活躍できる規模のライブハウス

ー本日はよろしくお願いいたします。まず、本多さんの経歴を教えていただけますでしょうか。

最初はイギリスのヴァージングループが創業したヴァージン・メガストアーズ・ジャパンというCDショップで4年間ほど働いてました。そのあとは夜六本木のClub Gaspanic 99 の店員などをしながら、昼間は駅前留学NOVAで英会話を学んでいました。そのあとは音楽専門学校の教職員をしていたんですが、その時にHOT STUFF PROMOTIONというコンサートプロモーターに数か月出向して、そこでコンサート制作・宣伝という仕事を学んだ感じです。音楽専門学校でも4年間ほど働いましたが、一方で、夜間の大学院に通ってMBAを取得しました。退職後に中国・上海に退職金使って留学渡航&現地コンサート招聘企業でしばらく働いていました。帰国後は、PS COMPANYというヴィジュアル系アーティストの音楽事務所でアーティスト・マネージャーをしていましたが、縁があって再び上海に駐在という形で音響会社に入社し、現地のライブハウス「MAO LIVEHOUSE上海」の管理をしていました。当時は上海万博もあって世界中のアーティストが上海に来ていました。しかしその後に尖閣諸島の問題があって日本のアーティストが来れなくなってしまいました。私は日系興業ができなくなってしまったので、香港の支店に移りました。香港で2年くらい日系公演の現地プロモーターをやって、その頃にZeppが海外にできるっていう話を聞いて、ソニー・ミュージックグループのZeppホールネットワークに入社したという経緯です。

本多真一郎氏

本多真一郎氏

ー音楽でアジアを渡り歩いてきたんですね。

そうですね。海外要員として入社して、アジアで最初にできたZeppがシンガポールだったんです。シンガポールには3年間赴任したんですけど、その中の2年をシンガポールの営業に費やしてました。[email protected] Singaporeは、元々あった催事会場をリノベーションしてつくりました。一方で、Zepp New Taipeiの場合は一から作っているので、いわゆる日本と同じZeppのハコです。見た目も同じですし、設備も最新鋭かつゴージャスに作ってるので、たぶんZepp全館の中で一番良いと思います(笑)。

ーZeppがそもそもアジアを目指そうと思ったきっかけ、目標はあったんでしょうか?

元々Zeppは日本のアーティストを海外に出していこうというのが根幹にはあるんですよね。でも日本もそうですけど、ライブハウスってその土地にアーティストがいないとなかなかブッキングが難しい。日本のアーティストにとって、なかなか2000人規模の会場って大きいのですけど、現地経営のことも考えると2000規模会場の方が、いろんな需要にこたえられるのです。日本のアーティストが現地で日本と同じようにやりたい人はスタンディング2000人キャパでできるし、集客できるか不安な人は1000人でもできる。1000人規模の会場だと、台湾には競合企業が既に3社くらいあるんですよ。市場での棲み分けですね!

―なるほど。2000人キャパのライブハウスだと逆に競合相手もいないと。

台湾では、ある種のドンシャリといいますか、インディーズ層と誰もが知るTHE・芸能層みたいな層があるとして、中間層があまりいないんですよね。日本は中間の中規模クラスのアーティストがかなり多いんです。同じように台湾で実力あるミュージシャンが増えてくると、台湾の層の厚さも増えるし、技術者も増えて、雇用も増えてくるわけですよね。この中規模の重要性を感じ、ローカルミュージックの市場を支えていこうというのがコーポレートミッションのようなものですね。

ー中間層のアーティストが活躍できる場所って大事ですよね。台湾のライブハウスだと、Revolver、PIPE、THE WALL、Legacyなど大きくても1000人キャパくらいで、それより上になると台北ドームなど、急に規模が大きくなるイメージがあります。

そうなんですよ、そこがこの台湾市場に足りない部分でして。ライブハウスLegacy Taipeiも素晴らしいハコでシーンを牽引してきていますが、その上の規模の会場がないんです。新光三越の上にあるLegacy Maxは催事場をリノベーションしたような場所で1500〜2000人規模なんですが、Zepp New Taipeiは、設計段階から4フロアをブチ抜いて作った本格的な会場です。建設用語的にはボックス・イン・ボックスと呼ばれる、ハコの中にハコを作る建設設計です。これは当然それなりの費用がかかっているのですが、やれる限りのことをやり尽くして万全にしていると思います。そもそもライブができる会場が日本ほど多くないので、例えば台湾大学体育館を借りて公演となると、週末を借りて仕込みやセットのバラシもしないといけないですよね。ところがZepp New Taipeiの場合だと、うちにある機材を使う前提で言えば仕込みもバラシも必要がない。おおざっぱに言うと、楽器類だけ持ちこめば良いので、利便性が高くて費用も抑えられる。そういう意味でも、設備も構造も最初から音楽イベントを目的に作られているので、市場としての存在意義、価値もあると思います。

Zepp New Taipeiの経営ポイントと特殊な立地条件

ー台湾だと、規模の大小を問わずライブハウスでのライブイベントが平日には日本ほど多くないという印象があります。そうなると、大規模な会場だと採算を取るのも難しいのかなと思うのですが。

意外かもしれないんですが、ワールドツアーを回っているアーティストは平日公演も多いんです。もちろん週末の方がお客さんを集めやすいんですが、ツアースケジュールの関係で平日公演になることも結構ある。一方で、コロナ前は稼働率100%に達したZepp Tokyoでさえ、1998年の開業初期はご利用が少ない時期もあったんです。しかし、東京、名古屋、大阪、いわゆる東名阪にZeppができて3都市が結ばれると、一気に稼動率が上がったんですよ。なので、コロナが収束した時に、ワールドツアーをするアーティストが日本でZeppを廻った後に、台北も行ってみようかな?と思ってくれると、全館の利用率が上がるんですよね。これが年間10本でも入るとだいぶ変わってきます。かつ、アジアツアーを回せる中華系のミュージシャンも結構います。それが入ってくると、実は平日や週末関係なく公演は増えるんです。平日利用で他に言うと、企業ユースですね。Zepp New Taipeiは新北市にあるんですが、周りに集会施設がないんです。シンガポールのZepp運営でも多かったのですけど、企業ユースなど他の目的でも使われるということも想定しています。台湾だと忘年会や新年会など企業催事も多いですしね。

ーお話にも出てきましたが、今年は新型コロナウイルスの影響もありました。コロナ以前からZepp New Taipeiの計画はあったと思いますが、やはり計画通りに行かず困難に見舞われたのでしょうか?

すごい大変でした。ただ、一つありがたかったのは、台湾が素晴らしくコロナをコントロールしていたおかげで、工事自体がそんなに遅れなかったんですよ。もちろん一部資材は海外からの物資もあったので、海外の方の都合で出荷準備の遅延はあったんですけど、それでも大枠ではなんとか開業には間に合った。これができたのは、たぶん世界で台湾だけですよね。なぜなら、世界のどの国も外出禁止や自粛の時期があったじゃないですか。でも台湾にはそれがなかった。大きなショッピングモールの中に大きなライブハウスを作るという、簡単ではない工事さえも止まらなかったのは奇跡に近いんです。他に困ったことで言えば、コロナの影響で年内毎週末に入ってた国際アーティストのブッキングも全て無くなってしまったことですね。台湾としても、外から新型コロナウイルスを持ち込みたくはないと思うんです。なので、今後も入境制限は続くだろうし、年内はZepp New Taipeiで海外と人が行き交う何かっていうのは難しいんじゃないかなと思うんです。だから、年内に入っていただいてるイベントはおよそ台湾内アーティストに切り替わっています。ただ、今から再度ブッキングという話なので、どうしても限界はあります。やはり今のところ、海外アーティストの公演を台湾でやるっていうのは楽観的に見れない状況ですね。何よりも安全第一ですからね。

ーまだ先が見えない状況ですよね。立地の話なんですけど、Zepp New Taipeiは新北市・新荘区の「宏匯広場」に構えます。あの辺りは特別ライブハウスが多い地域でもないですよね。

そう、これまでは何もない場所にマンションが建っているだけだった。いわゆる再開発地域なんです。ただ、Zepp Tokyoが出来た時も”なんでお台場なんて何もない場所に作るんだ”って言われていたらしいんですよね。ところが、Zeppができると周りが潤うという仕組みもあるんです。要するに、ライブを観るために毎週末2000人くらい集まると、ショッピングモールの中で買い物をするようになるし、周辺に飲食店の需要が高まってくる。新北市は副都心と呼ばれていて、市場関係者の調査研究では、このエリアは大きく発展すると言われる地域なんですよ。確かに台北市内ではないので台北っ子には若干不便ですけど、台北駅から伸びる空港エクスプレス線に乗れば各停4駅目でZepp New Taipeiに着いちゃうんです。タクシーでも台北駅から15分で着いちゃいますし。台北市って、街自体は小さいし、その中で何でも済んでしまうので、ちょっとした移動にも苦を覚えちゃうようです。東京近辺だとコンサート観るのに電車で1時間の移動って全然遠くないじゃないですか。慣れればきっと問題ないと思います!

ー地価も比較的安く済む、慣れれば移動も苦じゃない、周囲の再開発も望めるという三つの条件があるんですね。

採算的なことを言うと、やはり固定費の存在は大きいです。コロナ禍の中でも、固定費がかかっている会社ほど辛いとお伺いするのですけど、当然ビジネスにも波がありますし、売れる月も売れない月もある。なので、固定費は極力最小化させたい。我々の仕事は5年、10年という長期スパンで考えているので、如何に潰れないかっていうことが、逆に言うと音楽業界への貢献でもあるんです。

Zepp New Taipeiが台湾で目指していく事

ーZepp New Taipeiができることで、台湾のミュージシャンがZeppを通して日本を始め、アジアに進出できるきっかけになりそうですよね。

そういったきっかけになってほしいと思います。ただ、今までも、有名な台湾アーティストが日本市場に挑んでも上手くファンを新規に取り込めなかったという現実もあります。でも、台湾の滅火器とか、日本とつながりのあるミュージシャンがどんどん日本進出していけば、日本人も興味を持ち出すでしょうし、そこでいいクオリティのものを見れば、ファンも増えてくるでしょうしね。そういう意味でも、サポートができたらと思います。もちろんロックだけじゃなくて、バラードを歌うシンガーもすごく質がいい。台湾の泣きメロ、日本人も共感できるものなので、ぜひ気に留めてほしいなとも思います。あと、日本の歌謡曲・演歌なんかも台湾で高齢者に人気があるんですよ。なので、日本歌謡曲歌手が台湾に入ってきて、現地台湾歌謡曲歌手とコラボも面白いだろうし、台湾の原住民をはじめとする民族音楽も盛んなので、それらの良さを商業ベースでない観点でも広めていきたいですよね。また、国を代表する都市のZepp TokyoとZepp New Taipeiでという開催だけではなく、例えば地方、距離の近いZepp New TaipeiとZepp Fukuokaの連動企画・ライブなんかもできたりする気がします。実際、福岡のいろいろな事業者様が台湾に興味を持ってくれているんです。他にも、沖縄と台湾が近いというのもあって、よく沖縄の音楽関係者と接する機会が多いんです。そこでも、コロナが落ち着いたら沖縄と台湾で何かやれたらねっていう話もしているんです。台湾と沖縄、相当距離近いですからね笑。台湾と、日本の地方とのつながりも増やしていきたいですね。

ーZepp New Taipeiができたことによって、小規模ライブハウスとドーム・ホール規模の会場の中間として、台湾ミュージシャンの新たな目標、登竜門にもなると思うんです。日本だとキャパ200,300くらいの会場を埋めて、恵比須LIQUIDROOM、TSUTAYA O-EAST、Zeppとある程度の道筋が見えているし、ミュージシャンもそれを意識しているじゃないですか。台湾のミュージシャンもそういう流れを意識しているのしょうか?

そうですね。台湾でいえば、WALLで4-500人、Clapper Studio 600人超 、LegacyかATT SHOWBOXで1000人集めて、その次にZeppかLegacy MAXっていうことになると思います。その上が、TICC(座席で3000)とか台湾大学体育館(3000超)、新荘体育館(4000超)って感じでしょうか。でも、時代がちょっと変わってきていて。昔は人気が出てCDが売れて動員にも繋がるっていう構造だったと思うんですけど、今ならYouTubeなどで人気が出て、1000人クラスが急に数千、それ以上クラスになっちゃうって聴きます。だからあんまり順番も何もないかもしれないですけどね。Zeppが国内外問わずやっている役割って、そういう場所で活躍する人たちが次のフェイズに羽ばたくための、ちゃんと利益を回収して皆ハッピーに終われる状態に持っていける役割なんですよね。会場は大きいので、ステップストーンとして羽ばたく準備の場所として使ってもらえると思いますね。

ー台湾は、今年2,3月あたりでも100人以下の会場ならガイドに則ればライブもできていたし、今ではその制限も解除されて、そうなると客入りのあるライブもどんどん以前のように開催できるようになっていくと思われます。さらに、Zepp New Taipeiというライブ会場の営業開始は、人のいる大規模ライブが増えていくきっかけになりますよね。

そうですね。Zeppと同時期に開業した北部流行音楽中心っていう国が作ってる5000人規模の会場があって、日本でいえば東京国際フォーラムのホールAほどの規模なんですが、そういうところもできたっていう台湾にとっての朗報もありますし。だんだん上潮になってますよね。秋にかけて色々なコンサートも復活していく状況です。

ーZeppという日本資本のライブハウス文化や音楽文化を持つ企業が、台湾の音楽シーンに進出して溶け込んでいくために意識していることってあるんですか?

結局は人と人のつながりですね。主催者とコミュニケーションを取るところですね。この前のZepp New Taipei内覧会では、650名ほどの業界関係者や媒体の方がいらして、高い評価をいただけたので、その中から一つ一つ形にしていけばなんとかなるのかなと思っています。正直、今海外で日本ブランドだからって優遇される点は、あんまないんですよね。もちろん各種品質はありますけども、いまやアジア各国発展が目覚ましい。日本人が海外に出て、上から目線になっちゃいかんと思うんですよね。何の為に我々日本人が海外に行って、何の為に何をするのか?ということはつねに考えないといけない。Zeppで言えば、台湾の音楽産業を下から支える意識が大事かなと思いますね。

ー最後に、本多さんご自身は最近注目の台湾ミュージシャンとかいますか?

この前の内覧会でも出てもらったJ.SheonはかっこいいR&Bシンガーでしたね。今年の金曲賞にもノミネートされていますし、実際目の前でライブを観てセンスの良さを感じました。あと最近ではビビアン・スーですね。台湾のSONY MUSICと契約されているんですけど、元々こっちではイメージキャラクターとしての需要もある方なんです。新曲バラードなんか、すごくいいですよ。

あとは、今度Zepp New Taipeiでイベントをやるんですけど、滅火器も非常に面白い。日本のMONOEYESや韓国のTHORNAPPLEらともアジア回っていましたしね。このイベントは、火氣音樂主催で、複数のミュージシャンやバンドが出るプチフェスみたいなもので、皆を巻き込んで一緒にやろうという、有機的な面白さを感じます。なんか、とってもロックで、ある意味Zeppらしいですよね。すごく楽しみにしています。

作者