【一青窈 x 台湾音楽】最近の台湾の若者は何を聞いている?

Aug-23-2021

7月14日PM3時、多くの視聴者がオンライン上で集った。

アジアで活動する個が集まるプラットフォーム、ReASIA主催のトークイヴェント・NONGKRONGの13回目のテーマは台湾音楽。企画趣旨は「もらい泣き」、「ハナミズキ」などで著名な歌手・一青窈に「コラボする台湾音楽を提案してみよう!」。「台湾の若者がどんな音楽を聴いているのかに興味がある」と話す一青に応えるため、対談者に関俊行が招かれた。彼はMIDIから2枚のアルバムを出したアーティストにして、MIKKIにて『台湾洋行』を連載し、台湾やヴェトナムのポップスを専門とするキュレーターだ。

台湾の若手アーティストが生み出しているサウン

90年代後半~0年代前半生まれの世代は、とくにZ世代と呼ばれている。生まれてからすでにICTやパソコンがある環境で育ったデジタルネイティブの彼らは、CDを購買するよりも、ストリーミングサーヴィスで若手アーティストの楽曲に親しむ傾向にある。そんなZ世代のアーティストとしては、問題總部 It's Your Fault、陳嫺靜、NIOが挙げられた。特に問題總部は金音創作奨(以下GIMA)というインディーズ音楽の創造性と国際性を振興することに特化した賞にノミネートされた。一青は若手実力派アーティストたちを多数プロデュースするYELLOWの敏腕ぶりに敬意を表し、NIOをプロデュースするDisparityらの作曲の質を賞美した。とりわけ、一青の関心を強く惹いたのは、日本にはない創造的な文化と制度である「卒業ソング」の流行だった。台湾では高校卒業を期に「畢業歌」と呼ぶ自作自演のミュージックヴィデオを制作する文化が広まっている。

新たな潮流としてのヒップホップR&B

次に台湾HIP-HOPの歴史が概説された。90年代中葉から、L.A. BOYZやMC Hot Dog、DwagieといったパイオニアたちによってHIP-HOPが台湾で花開く。台湾でHIP-HOPがメインストリームへとのし上がった転機は、2017年に中国で「The Rap of China」が放映され、台湾人アーティストも多数出演してからだ。2019年、Leo王(ワン)が金曲奨でラッパーとしてはじめて最優秀男性歌手に列せられた。「The Rap of China」が2018年に大陸で放送禁止されても、2021年、台湾発のHIP-HOP番組が放映され、熱気を帯びている。また、柯文哲台湾市長は選挙戦で「Do Things Right」というラップで投票を呼びかけた。10年代以降はRed Bull主催のDJコンペティションが開催され、Migos、Future、Young Thugなどの若手がボーダーレスに人気を博している。

R&BはHIP-HOPとの相乗効果で発展している。いまではBillboardのチャートで「HOT R&B / HIP HOP SONGS」と両ジャンルが統合されているように、台湾でも両ジャンルはインタラクティブだ。HIP-HOP番組「大嘻哈(シィハァ)時代」も、ホストはJ. Sheonであり、ØZIも出演している。9m88(ジヨウエムバーバー)も、Leo王やØZIとコラボし、SHI SHIやJulia WuたちR&Bのディーヴァたちも積極的にラッパーたちと合作している。2020年のGIMAで3部門受賞したJ. Sheonは「R&Bって、台湾では少し特別なジャンルだと思うんです。・・・この賞がある事で、より多くのR&B好きの⼈が大胆に自分の好きな音楽をできるようになって欲しいです」とスピーチした。関の楽曲紹介は多岐にわたった;一青が注目するYELLOW黃宣から始まり、9m88、LINION。一青は歌い方が「土着的でない」点を指摘。LEO王のレゲエ風な台湾語の歌曲を除けば、Julia Wu、ØZI、J. Sheon、李英宏 aka DJ Didilong、Shi Shiはみなそうだった。金曲奨に多数ノミネートされた蛋堡 Soft Lipaの他にも、多数の若手ヒップホップグループが後続に控えている。

グローバルな盛り上がりを見せるアジアの音楽

実際、「アジアを代表する音楽プラットフォームを提供する」ことを掲げる88 Risingはアジアの音楽シーンのグローバリゼーションとハイブリディティを鮮明にした。所属アーティストたちの楽曲は配信で合計70億回再生され、ヴィデオの視聴回数は30億回を上回る。また、パブリック・エネミーズやビースティー・ボーイズらを生んだDef Jamは近年アジアに支社を広げており、マレーシア、シンガポール、タイ、フィリピン、インドネシア、ヴェトナムの各国特有のHIP-HOPを創発させている。台湾のアーティストたちの多様性と固有性を発展させるために創立されたGIMAはこの流れに呼応するかたちで、2019年にはアジアで最も優れたアルバムを讃える「ASIAN MUSIC CREATION AWARD」なる新部門を設けた。昨年はインドネシア出身のラッパー・Rich Brianが受賞したことで共感を呼んだ。彼のように英語圏で活躍するアジア系ミュージシャンは枚挙に暇がなく、このような世界的な潮流も踏まえると、台湾音楽を見る視点も変わってくると関は言う。

その他の音楽:シンガー・ソングライター、ロック、ポップスなど

一青は、茄子蛋 EggPlantEggが台湾語で歌いながら大陸のリスナーからも人気が高いことにも注目。中性的な声をもつChihSiou 持修は2020年に金曲奨の新人賞を受賞。タイヤル族の血をひく呂薔Amuyiや、原住民のシンガー・ソングライターJiaJia家家らの歌声に聴き惚れた。渣泥 ZANIも忘れ難い。

関は「これまで紹介したアーティストたちとのコラボはもちろんあり得る」とした上で、その他にも、エレクトロニックミュージックのアーティストたちも提案した。DARK PARADISE RECORDSに属する林瑪黛 MATELIN、プロデューサーとしても名高いDizparity、音楽以外の芸術分野でも表現の幅を広げるLUPAらがあげられた。

一青はこう締めくくった。「ボーダレスな若者たちがたくさん活躍していることは知らなかったため、とても勉強になった。アメリカナイズドされたジャンルはすでにすばらしい世界ができあがっているので、自分がハーフ台湾人、ハーフ日本人であることをふまえて、テレサ・テンのような、土着的な表現、たとえばEggPlantEggのようなアーティストたちと組むことが自分らしいコラボになるのではないか。」

次回は8月25日PM3時から、再度オンラインで開催する。次回の内容は、前半でとりあげきれなかった、原住民音楽、客家フォーク、Jazzといった、よりディープでヴァナキュラーな音楽ジャンルにフォーカスし、一青のリクエストにもさらに応えていく予定だ。台湾音楽はますます拡散する。

ReASIAウェブサイト(「NONGKRONG」のなかの「台湾音楽」をクリック); https://reasia.org/

※台湾では先住民族を“もともと居住していた民族”という意味合いのもと「原住民」と表記することが一般的であり、本稿でも現地の通例に倣い「原住民族」という表現を使用しています。