歌うたび認識を新たに。大竹研 × ゲシュタルト乙女・Mikanが対談

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数々の受賞を経て、台湾で活躍する日本人ギタリスト大竹研。沖縄の唄者、平安隆から台湾客家音楽界を代表するシンガー、林生祥まで、伴奏者として台湾の音楽界に足を踏み入れ、気づけば15年も歩きつづけてきた。台湾バンド「生祥楽隊」での活動と並行して、早川徹、福島紀明と共にジャズトリオ「東京中央線」を結成するなど、華々しく活動を展開してきた。2019年、東京中央線で第30回金曲獎「演奏部門」で最優秀アルバム賞を獲得し、その翌年、2枚目のソロアルバム収録曲「Okinawa」で金曲獎「演奏部門」の最優秀作曲家賞、更にベストプレイヤー賞を受賞した。

「ギターの虜」を自称し、今年は「東京中央線」からアルバム『Fly by Light』、インド音楽家の若池敏弘とのデュオアルバム『Yü』を相次いでリリース。映画『瀑布』の劇伴演奏に加えて、大竹研としてのソロアルバム制作も始まった。そのゲストミュージシャンの中には、日本語で歌う台湾バンド「ゲシュタルト乙女」でボーカルギターを務めるMikanの名前もあり、驚かされる。

異郷で演奏し続ける日本人ギタリストの作品に、日本語で作詞してJ-POPメロディーを創作する台湾人シンガーが参加すると、一体どんな曲が出来上がるのか?期待がふくらむ。日台の文化と「歌うこと」について、お二人に対談してもらい、じっくり話を訊いた。

ーーまずはお二人近況を伺いたいです。コロナでご自身のライブや音楽作りにどんな影響がありましたか?

Mikan:ゲシュタルト乙女で5月に開催する予定だったライブが延期になってしまいました。作曲自体には特に影響がなかったと思います。

大竹研:僕は、5月14日に台南でサックス演奏家の謝明諺くんとライブ、翌日はインド音楽家のワカさん(若池敏弘)と雲林でライブの予定だったのですが、台湾の自粛宣告で、できなくなってしまったんです。それで僕は台北に戻りました。この3、4ヶ月の期間は、たまにライブもあったけど、新しいアルバムを作り始めました。それで、Mikanさんをゲストにお招きしました。

ーー今回はボーカル入りのアルバムを作成中だそうですね。

大竹研:そうです。僕はいま台北在住で、東京中央線のメンバー3人と共同生活をしています。今年4月末にベースの早川くんが日本に戻った後、台湾もコロナ禍に入り、福島さんと僕の二人暮らしになりました。今まで福島さんと二人きりで長く話したことがあまりなかったけど、話してみたら、僕らが10代の頃に好きだったバンドの話になりました。僕はBOOWYを見てギターを始めたのですが、今は演奏やリハの前にBOOWYのリフを弾くことは一切しません。完全に封印してプロを目指してきました(笑)

福島さんは実際にBOOWYのライブ見たことがあるそうです。そこから話が広がって色々と懐かしくなり、僕は家の近くを散歩しながら大音量でBOOWYの曲を歌ってみました。その時に「歌うのは面白いなぁ」、「まだこの感覚で音楽を作ったことないなぁ」ということが頭の中に浮かんだんですね。たまに遊びで歌うことはあったんですが、自分はギタリストが本職だから、と深く考えたことがありませんでした。今作で生まれ初めて真剣にボーカルに取り組み、歌うのはなんて難しいんだろうと。ボーカリストを改めて尊敬しました。

ーーMikanさんとコラボすることになった理由は?

大竹研:アルバムの制作期間中に、本当はもっとボーカルゲストを入れたほうが良いんじゃないかとマネージャーにも言われたのですが、今まで僕はインストの音楽を中心に作ってきたから、沢山のシンガーを呼んでくると、がっかりされちゃうかもしれない、と思って。今回のアルバムでは、日本人の僕が中国語で、台湾人のMikanさんは日本語で歌っているんです。これはインパクトがあるんじゃないかと思いました。Mikanさんもコラボのオファーを承諾してくれました。一緒にやってもらえて有難いです。

ーーお二人は以前、ステージで面識がおありでしたか?

Mikan:ありません。私から声をかけたことがありましたが…。

大竹研:ライブでは会ったことがないですけど、Mikanさんは一度SNSで「スロウ」というGRAPEVINEの曲をシェアしたことがあったのを覚えています。僕も本当にいいバンドだと思います。それに僕と20ぐらい歳が違う台湾のミュージシャンがGRAPEVINEを好きって、嬉しいです。それがきっかけになって話をしてみたら、とても気が合う人だと思いました。

Mikan:好きな物は共通点が多いですね。

大竹研:そのあとコロナ禍になって、一人でアルバムを作っているうちに、ゲシュタルト乙女の曲を聞いてみました。Mikanさんだったら唄ってもらうことはもちろん、日本語の作詞や中文の翻訳もお願いできると思って。結果、大成功でした。

Mikan:こうして出会わなかったら、大竹さんのような大先輩と一緒に音楽を作ることができなかったでしょうね。音楽をやっていて本当によかったと思いました。

ーー制作期間中に、何か印象的なことがありましたか?

大竹研:アルバム曲の収録は台北のスタジオ「玉成戲院」で行うため、Mikanさんに台北へ来てもらったんですね。普通、レコーディングスタジオは冷房が結構、効くじゃないですか?そしたらMikanさんは「冷房を消してもいいですか」と言っていて。いつも冷房を消したままで録音するそうです。非常に台湾っぽいなぁと思っていました。

Mikan:あっ、そうです。普段使っている台南のスタジオで音取りをする時にも、必ずエアコンを消します(笑)

大竹研:南北の湿度の差に関係しているのかな。と、印象的でした。

玉成戲院スタジオでコラボ曲を収録した二人。

ーー大竹さんはソロアルバムを作りながら、若池敏弘さんとのデュオアルバム『』をリリースし、さらに映画『瀑布』のサントラ制作にも参加していらっしゃいました。その映画は金馬獎(台湾映画賞)で映画音楽賞を含む8部門にノミネートされています。入選が分かった時のお気持ちは如何でしたか?

大竹研:そうですね。僕は野球が好きなので「ノミネート」を野球で例えると、賞を取るのってホームラン王になるみたいなものだと思っています。仮にホームラン王になれなかったとしても、色んな賞にノミネートされることは、ある種、世間に知ってもらうためのレースに参加できている事だと思うんです。だから受賞できたらもちろん嬉しいけれど、できなくても十分ありがたい。こうしてノミネートされているわけだし、自分の音楽をまだ続けられるなって感じです。

ーー『瀑布』はコロナ禍を背景に制作された映画作品です。ゲシュタルト乙女も5月に開催予定のアンプラグドツアーが延期されてしまったそうですが、この期間、Mikanさんはどうやって心を整えてきましたか?

Mikan:ドラマ鑑賞は創作のインスピレーションを吸収できる一つの方法だと思います。自分にない人生経験やアイディアを得ることができます。自粛期間はゲシュタルト乙女のセカンドアルバムを制作しながら、映画やドラマを沢山見て心を調整していました。コロナ禍で好きなアーティストがこの世を去ったというニュースを聞き、生死の別れが生み出す悲しみ、お別れの気持ちを音楽に託したくて、先日発表した新曲「再見(さよなら)」を書きました。少しでも前向きでありたいという願いを込めて制作しました。

ーー台湾で演奏してきた日本人ギタリストと、日本文化に影響を受けて日本語で創作し始めた台湾人ボーカリストであるお二人が、現在の創作スタイルにこだわった理由は何でしょうか?

Mikan:日本語で作詞を始めたのは、中文では恥ずかしくて言えない気持ちを日本語でなら表現できたからです。音楽のルーツや自分の性格に合うかどうかも関わってくると思いますが、日本語のほうが自分の想いをしっかりと伝えられるので、今まで日本語での創作を続けてきました。

大竹研:台湾で演奏し続ける理由は、自分が選んでいるというより、台湾に生かされているからじゃないですかね。誰も相手してくれないと人前で演奏することもできません。そして、活動初期に出会えた人々が素晴らしかったんです。大大樹音樂の鍾適芳さんとミュージシャンの林生祥、この二人は僕に大きな影響を与えてくれました。

僕と生祥は10年以上前に二人だけで演奏していた時期がありました。今のバンド「生祥樂隊」が大勢の観客の前でやっているのとは全く違って、二人で課題を持ち寄って面白いことをしようと続けていたんですね。そういう時期があって、台湾の人も気にかけてくれたから、たまたま僕はここに居つづけられているんだと思っています。

ーーお互いの言葉を習得するプロセスで、一番苦労されたのはどういった点ですか?

大竹研:聞くことです。巻き舌の発音が区別できません。

Mikan:最初は、話すことが一番難しいですね。会話に慣れていない時に、口から日本語を出すのはかなり勇気が必要でした。あとは敬語です。台湾はあまり敬語を使いません。日本語は敬語の種類や使い方、相手による違いなどがあって、勉強し始めた時は大変でした。

オンラインインタビューでの大竹研とMikan。

ーーコロナ禍で海外渡航が厳しい現在でも、多くのミュージシャン創作を続けています。日本と台湾から海外へ進出して活躍したいと思う方にアドバイスを頂けますか?

大竹研:自分の中に何があるのか、ちゃんと探しにいくには時間が必要です。周りに左右されないように、自分が持っている音楽を掘り下げるのは大事だと思います。そこに熱意とエネルギーを注いでいって、いつか海外に行くことになれば、それもいいんじゃないかと思います。

Mikan:自分の音楽のルーツを見つけることが大切ですね。また、今は便利な世の中だから、ネットを活用して、自分の音楽を発信していったらいいと思います。

ーー最後、それぞれに最近オススメの音楽作品を教えてください。

大竹研:

Mikan:

作者