ロックで台湾と人生の物語を紡ぐ。拍謝少年と語り合う「歹勢好勢」

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1987年以降、戒厳令解除に伴って始まった「新臺語歌運動」で、台湾は台湾語で歌う時代を迎えた。台湾人としてのアイデンティティを意識し始め、台湾語を流暢に話せない若い世代でさえも、母語での創作活動に熱中した。30年が経った現在でも「自分の言葉で台湾の音楽を創りたい」という強い想いで活動するアーティストは後を絶たない。

台湾のロックシーンを牽引するバンドと言われた拍謝少年 (Sorry Youth) もその一員だ。台湾・高雄出身のオルタナティヴロックバンドで、フェスのヘッドライナーを務めたり、権威ある音楽賞を受賞したりと台湾国内での人気は絶大。METZの台湾ツアーサポートや、カナダ、日本、韓国でフェスに出演するなどワールドワイドに活躍している。待望のニューアルバム「歹勢好勢 (Bad times, Good Times.) 」が今年4月に発表され、8月には日本盤がリリースされる。

台湾に限らず、全世界でリスナー数を伸ばしている前作「兄弟沒夢不應該」発表からおよそ4年。オルタナティヴロック、ポストパンクをベースに、エモ、ドリームポップ、ノイズポップ、ポストロック、サイケなどあらゆるスタイルを凝縮したサウンドと、情熱のほとばしる台湾語ボーカルが融合した今回の新作について、メンバーの薑薑(ジャンジャン)と維尼(ウェイニー)に話を聞いた。

── 四年前の自分と比べてどんな変化がありましたか?

薑薑:「歹勢好勢」は、僕たちがプロのミュージシャンとして活動を始めてから発表する第1作目です。コロナの影響でライブが減ったので、その空いた時間も創作に集中できました。4年前と比べて、作曲にはおそらく3倍以上の時間が掛かりました。

維尼:曲を書いたのは1年前のことです。今はコロナで音楽活動が難しくなってしまいましたが、今、自分の曲をもう一度聞き直してみると「あ、去年はこんな曲を書いたんだな」と、とても不思議な気持ちになります。

── タイトルを日本語に訳すと「良い時もあれば悪い時もある」という意味ですが、このタイトルに決めた理由とは?

薑薑:今回のアルバムは、謝銘祐さんに台湾語歌詞の監修を担当して頂きました。アルバムを作る前、僕らがスタジオを訪ねた時に謝さんから、「山盟」という曲のタイトルに「歹勢」を入れたらいいんじゃない?「好勢」も良さそうだね。というアイディアをもらいました。僕らもこの2つの単語が気に入って、それをつなげて使ってもいいな。と思いました。

世界的な感染拡大の中で、人との関係や距離を考え直した去年だけでも、心の変化がかなりあって、今もその変化を切実に感じています。人生海海 (人生は海のようだ) を僕らの言葉で解釈したのが、このアルバムです。潮のように満ち引きがある人生で、心の状態を更新し続けながら、未来に向き合わないといけません。

前作「兄弟沒夢不應該」では、社会人になったばかりの心境を表現しました。今回の新作アルバムには僕らが30代になろうとする「現在」を記録しています。「ミュージシャンであると同時に、ごく普通の人」だという想いを9曲に込めて、そして曲ごとに違う宇宙を展開しているので、最終的にはシングル曲を集めたアルバムのようになったと思います。

── アルバムプロデューサーを初担当した心境は?

維尼:台湾のインディバンドの半分以上は全部自分達で運営をしていると思います。演出・創作に限らず、プロデュース、マネジメント、PRプランの発想からツアー準備まで。僕たちも全部自分達で手掛けています。

薑薑:僕たちのバンド自体が自分のレーベルなんです!

維尼:完全にアーティストの視点から作品を見ると、レコーディングの品質にどこまでこだわるか?これだけで、際限がなくなってしまいます。完成度は勿論大事だけど、あんまり完璧さを追求すると、my bloody valentineみたいに録音だけでレーベルが倒産してしまう結果になりかねません。スタジオで「納得できる音が録れるまで、絶対に帰らない」と意地になるよりも、他のポジションから自分の音楽を見直すことも必要だと思います。僕たちも確かに、夜中まで録音したことがあるけれど、できる範囲で努力をしていますから、大丈夫です。

── アルバムのクラウドファンディングは発表から、僅か4分で目標を達成したそうですね。当時のメンバーのお気持ちは?

維尼:クラウドファンディングを発表した時、薑薑はまだスタジオで録音していたはずです。僕は忙しかったから髪が随分伸びていて、その2時間の休憩の間に髪を切りに行きました。そして薑薑はレコーディングを終えて、僕は髪をカットして帰ってきたら、クラウドファンディングの目標が達成されていました。

薑薑:たしか、宗翰 (Dr.) も用事で外出していたんです。結局3人ともパソコンの前にいなかったから、何か起きたのが全く知らない状態でした(笑)

維尼:その後、2~3時間でストレッチゴールも達成できたことがわかって、企画内のライブやリターングッズの制作をうまく進められたので、よかった!と思いました。

薑薑:クラウドファンディングの目標を達成したことで、こんなに沢山の人がこの作品に期待していると知ることができました。本当にありがたいです。

維尼:今回のレコーディングでは特別に、台湾語歌謡専門のエンジニアに協力をお願いしました。部分的にデジタル機器も使用していますが、30年の歴史を持つ機材が入っているスタジオで、ドラムの録音とミキシングの一部分を完成させました。最終的にはディスクやストリーミングの形で配信しますが、昔の台湾語歌謡のノスタルジーでミスティな雰囲気がしっかりと音から感じられます。

薑薑:レコーディングのクオリティもかなり上がったと思うので、今回はレコード盤を制作することにしました。レコードを作るのは初めてで、カッティングだけで2回も挑戦しました。レコードは奥が深いですね。僕もこの歳になってアナログ盤に魅了されています。今、台灣でも沢山のミュージックマニアがアナログ盤を聴いている理由がようやくわかりました。レコードのミキシングとマスタリングがうまくいけば、リスナーにも多彩で面白いリスニング体験をしてもらえると思います。

── ゲストにLTKコミューン (濁水溪公社) の柯仁堅を迎えた「時代看顧正義的人 (Justice in Time) 」という一曲は、カナダでの出演をきかっけに作られたそうですね。フィーチャリングに柯さんを誘った理由は?

薑薑:2019年にカナダでライブした時の事から話さないとね。そのときカナダで、アメリカへ移民した第一世代の台湾人にお会いしました。過去に台湾の民主化運動に参加したため、政治的な理由で台湾へ戻れなくなった方々です。ちょうど同性婚法案の国民投票や香港デモ、台湾総統選挙が行なわれていた時期なので、僕たちは不安な気持ちでライブをしていました。先輩たちから「心配しなくてもいい」って言われて、色々と貴重な意見を頂きました。そして台湾に戻ったら、スタジオで真っ先にこの曲を作りました。

これは、「伝承」をテーマした曲です。公共の利益や価値に関わることなら、皆さんもきっと意識したことがあると思います。その意識を後世に残して、次の世代に影響を与えることができます。僕たちは音楽の「伝承」について考えていて、それを代表する人とコラボしたいと思っているところへ、維尼から提案があって決定しました。僕たち3人がずっと憧れていた人と曲が作れて、今回、まさにその夢を叶えることがきました!

維尼:戦後日本は外来文化を受け入れて素早く発展しましたが、台湾は戒厳令の時代に入りました。80年代末の民主運動は、ぜんまいを巻くように一度止まった台湾音楽の時間を動かしはじめたんです。その当時に結成されて、最近になって活動中止を発表したLTKコミューンは、台湾音楽の生きた歴史だと思います。

薑薑:台湾のイギー・ポップ!

維尼:そう!80年代末の音楽スタイルはかなり無謀な感じでした。柯さんは、あんなにクレイジーなステージに立っていたのに、柔らかい心で人に接することができる、とても優しい方です。LTKコミューンに興味がある方には「爛頭殼」というドキュメントリー映画をおすすめします。

── 「踅夜市」は台湾人に共通する記憶を表した一曲ですね。おすすめの屋台グルメがありますか?

維尼:地瓜球(サツマイモボール)、僕は何もつけないオリジナル派です。揚げたてをそのまま食べるのが最高!舌をやけどするぐらいがいい!

薑薑:「踅夜市」基隆夜市バージョンは日本盤のボーナストラックとして収録しています。撮影終了後に廟口に近くの屋台で魯肉飯を食べました。椎茸を混ぜた魯肉飯は小さい時によく食べたんですが、今は脂ばかりのひき肉を入れる魯肉飯しか見当たりません。だけどその屋台の魯肉飯は僕が子供の時に食べたのと同じ、とても懐かしい味でした!

維尼:台湾夜市のミシュランガイドを紹介します。台湾のおじさんについて行けばいい。何も言わずに座って食べ始めるおじさんを見つけたら、そこは美味しい店に違いないです。

── 台湾でも今は「おうち時間」を余儀なくされています。ステイホームに向けておすすめのグッズを教えてください。

薑薑:拍謝少年特製の虱目魚クッションと臺虎精釀社製造の「嗨口味」ビールです!

維尼:クッションはクラウドファンディングの限定特典だけど、「嗨口味」ビールは日本の臺虎精釀商品取扱店でも販売できるように準備が進んでいるので、もう少々お待ちください!

薑薑:まだ台湾には来られなくても、「嗨口味」を飲んで台湾を味わってくださいね。


影像提供:拍謝少年

作者