台湾人ミュージシャンが見た、中国の電子音楽シーンとは?ソニア・キャリコ(Sonia Calico)、ヴィーキー(veeeky)へのインタビュー

May-30-2023

台湾の現代電子音楽シーンにおいて大きな役割を果たしている、音楽家のソニア・キャリコ(Sonia Calico)とヴィーキー(veeeky)。そんな2人はよく「ソウル・シスターズ(soul sisters)」と称されている。アンダーグラウンド・コミュニティや、Korner(2018年に閉業)といったヴェニューへの関与、DJデュオ「バウンス・ガールズ(Bounce Girlz)」の結成、レーベル「UnderU」の共同設立など、彼女たちのクリエイティブな取り組みは多岐にわたる。最近だと、ヴィーキーはソニアの楽曲『Desert Trance』や『Change, Reset ft. PRINCI』の3DMVの制作を手掛けた。

また、彼女たちは2022年の「シナジー・フェスティバル(Synergy Festival)」にて、原住民シンガー、アバオ(ABAO)と共演し、『Synergy Triangle』と題した音楽とビジュアルによる魅惑的なパフォーマンスも披露。

彼女たちが現在行っているツアー「烏貓 Black Cat」は、台湾の電子音楽グループとしてパンデミック以降、初となる中国全土でのパフォーマンスだ。そして、DJとして数多くの共演を重ねてきたソニアとヴィーキーを再び結びつける機会ともなった。その内容は、台北のエレクトロニック・ミュージック・シーン黎明期を体験したミュージシャンやダンサーたちの集合的記憶を呼び起こす。

 

Sonia Veeeky black cat フライヤー 2023

 

多くの人たちが、この文化に対して大きな情熱と愛情を示してくれた

 

――中国でのツアー中、台湾の電子音楽シーンと比較して、観客やハードウェア/ソフトウェア、社会的な受け入れられ方、さらには資金源などについて、違いを感じる点はありましたか?

ソニア「3年ぶりに中国でツアーを行い、初めて訪れる都市がいくつかありました。パフォーマンス会場、サウンド・システム、観客の様子や反応、好みの音楽スタイル、クラブを訪れる時間まで、都市ごとに独自の特徴があると感じました。成都の『AXIS』や上海の『ALL』といったクラブは、CDJ-3000(Pioneer)やDJM-V10(Pioneer)など、最先端の機器を揃えていました。上海でのパフォーマンスの夜、他のクラブでもさまざまなイベントが同時開催されていると聞きました。けど、結局はみんな『ALL』に集まってましたね。

杭州(浙江省の省都)の『Loopy』では、ベースサウンドが激しく、会場を内側から外側まで興奮させていました。昆明(中国南部の雲南省の省都)の『Dada』でパフォーマンスをする前、中にいた人々は私が普段出会うパーティー好きの人たちとは違って見えました。ただ飲み物を楽しむために来たのか、その目的はわかりませんでしたが、私がパフォーマンスを始めると、誰もが踊り始め、ダンスフロアに詰めかけました。これは想定外で楽しかったです。

大理(雲南省)の『Pools』のオーナーは3人の兄弟で、クラブをオープンするという夢を、その大きな情熱で実現させたようです。一方、深圳(広東省)の『Oil』では、音楽がはじまるたびに興奮が爆発し、観客たちは皆、チャーミングでした。北京では、砂嵐に遭遇しましたね。私たちがパフォーマンスする予定だった『Groundless Factory』は、塵埃(じんあい)のために呼吸が困難で、機器には土が被っていました。

それでも、観客はこういった状況に全く影響されていませんでした。むしろ状況が厳しくなればなるほど、彼らの踊る欲求をかき立てました。このように、今回訪れた場所それぞれに物語があり、それらをすべて語るには時間が足りません。ツアー中は各会場(クラブ)のオーナーや、プロモーター、地元のDJなど、多くの人たちが、この文化に対して大きな情熱と愛情を示してくれました。彼らは自分たちのローカルシーンを発展させるために一生懸命に働いています。道中で出会った友人たちと多くを共有できたことはとてもうれしいですし、彼らに対する好奇心もさらに刺激されました。今後も彼らとより多くの時間を過ごし、そのシーンを真の意味で体験する機会が増えることを願っています。それは間違いなく、私たちにより多くの洞察を与え、皆さんと共有する機会につながるでしょう」

ヴィーキー「各都市の音楽シーン、雰囲気、ライフスタイルは大きく異なります。ある場所では、インターナショナルなパフォーマンスを主催するための条件がより整っており、リソースも豊かで、それがより開放的な考え方と多様な表現形式をもたらしています。また、これらの場所はダイナミックで商業的にも成熟している傾向があります。その一方で、地元のシーンを草の根的に育むことに焦点を当て、自分たちのクラブ音楽とシーンを少しずつ作り上げている場所もあります。そして、これらの2つの傾向は相容れないものではありません。

全体として、観客は開放的で好奇心が強いと感じました。会場(クラブ)のオーナーやイベントのオーガナイザーたちは、そのリソースを以前とは異なる方法で割り当てることに積極的です。これにより、多くの人々がニッチな音楽シーンにもよりアクセスしやすくなっています」

 

中国独自のソーシャルメディア・プラットフォームや音楽ストリーミングサービスの利用は不可欠

 

――「烏貓 Black Cat」の名前の由来は何ですか?

ヴィーキー「この名前は1929年、台湾が日本時代だった頃に、台湾の歌手、チウ・チャン(秋蟾)が歌った古い曲『烏貓進行曲』から来ています。地元の方言で、『烏貓』は街を闊歩するおしゃれな女性を指す言葉で、ポジティブな意味合いを持っています。また、『烏貓』というキャッチーな子供向けの歌もあり、そこではコーヒーとパンを食べることが歌われています。それは私たちが毎日行うことのように感じます」

 

 

——中国でのツアーを計画している電子音楽のミュージシャンたちにどんなアドバイスやインサイトを共有しますか?

ソニア「私は普段あまりWeChatやWeiboを使っていませんが、効果的なコミュニケーションを取るためには、これらのソーシャルメディア・プラットフォームと『NetEase Cloud Music』のような音楽ストリーミングサービスを利用することが不可欠です。自身の音楽がこれらのプラットフォームで利用可能かどうかを調査し、リスナーからのコメントを読む時間をとってみてください。とても面白いです。また、可能な限り多くの人と話し、彼らが何に取り組んでいるのかを聞くのもおすすめです。中国は広大で、人口も多く、イベントが絶え間なく開催されています。それらについてよく知ることで自身のイベントについても改善が求められますし、これまでに無いプロジェクトを計画し実行するためのモチベーションにもなります」

ヴィーキー「ソニアが言及したように、さまざまなソーシャルメディア・プラットフォームを使用する以上、情報やコンテンツを公開するためのローカルな手法への適用が必要となります。また、地元のパーティー・オーガナイザーはWeChat内にコミュニティを設立しており、これはより密なコミュニケーションを促進し、人々がより深く結びつくことを可能にします。コミュニケーションを取りたい、またはパフォーマンスを行いたい場合、各都市には独自のパーティー・オーガナイザーとミュージシャンがいます。彼らを見つけ、ネットワーキングすることがより確実なアプローチです」

 

Sonia and Veeeky performing Black Cat 2023

 

中国でもLGBTQ+のイベントが盛んであることに気づいた

 

――このツアー中に、面白いミュージシャンやオーガナイザーに出会いましたか?

ソニア「たくさんいました。上海では、前回のツアーで会ったアーティストのKnophaを含め、BAIHUI Radioの人たちに再会しました。今回はSlowcookにも会い、上海でのパフォーマンスの翌日、彼らの新しい会場を訪れました。

新しいBAIHUIは、ヒップなデパートの地下に位置しています。同じフロアには、多くの中国のデザイナーズブランドや地元のアーティストの作品があります。BAIHUI Radioはそこからライブ放送をしているんです。こんなに素晴らしい場所が電子音楽のラジオ局として使われているなんて、本当に驚きです。貴陽(貴州省)のクラブ、『Local』のオーナー、rasはDJで、台湾のヒップホップに深い愛情を持ち、副業としてスパイシー・チキンを売っています。

上海と杭州では、私たちは『Do Hits』(中国のアーティスト、Howie Lee主宰のコレクティヴ/レーベル)の一員として常に知っていたアレックス・ワン(Alex Wang)に会いましたが、直接会うのは今回がはじめてでした。

北京では、Groundless Factoryでのパフォーマンスの一週間前、LGBTQ+コミュニティのための大規模なイベントが開催されました。店はポスターで覆われ、ダンスフロアの中央にはまだ撤去されていない巨大な花のインスタレーションが残っていました。そのイベントは午後2時から翌日の午前7時まで続いたそうです。とても楽しそうで、中国でもLGBTQ+のイベントが盛んであることに気づきました。次回は参加したいと思っています」

ヴィーキー「このツアーは、パンデミック後としては初の、連続パフォーマンスで、季節の雰囲気も強く感じさせてくれました。各都市は春めいていて、街は人で溢れていました。長い間会っていなかった良き友人たちと再会するだけでなく、各都市で多くのクリエーターにも出会いました。これらの個々の人々は、それぞれの分野で情熱的に働いており、これは大いに刺激的です。

北京では、初めてGroundless Factoryでイベントを開催しました。彼らはパンデミック中も開放しており、強くい続けている唯一の会場だと言われています。それは広大な工場のスペースで、装飾はほとんどなく、サウンド・システムはクラブの基準を満たしていません。しかし、そこには素朴さがあり、エネルギーを感じることができます」

 

――今年のあなたたちの計画は何ですか?

ソニア「現在、音楽レーベルと話し合い中で、今年中にいくつかのEPをリリースする予定です。さらに、新台北美術館のレジデンシー・プログラムに参加し、陶磁器の楽器を作ることを試みています。それはおそらく7月頃に公開されると思います。他にも進行中のプロジェクトがいくつかありますが、その時が来たら発表します」

ヴィーキー「私は新しいビジュアル・プロジェクトに取り組んでいて、AIとアルゴリズムを使って農産物やサンプルの発展をガイドする実験をしています。うまくいけば、展覧会が開催されるはずです。また、アートではない領域でも新しいコラボレーションがあるかもしれません」

 

Sonia Veeeky Black Cat show