Non-Confined Space (非/密閉空間) の第2作『Meta, Construct Within’ Spaces』アルバムレビュー

BY Akira Saito 齊藤聡

台湾随一のジャズサックス奏者・謝明諺(シェ・ミンイェン、通称テリー)が鄭各均(ソニック・デッドホース)と組んだユニット「Non-Confined Space 非/密閉空間」(NCS)が、第2作『Meta, Construct Within’ Spaces』をリリースした。

といっても、テリーがサックス、デッドホースがエレクトロニクスという単純な役割分担ではない。筆者は、同じ台湾のギタリスト陳穎達(チェン・インダー)がリーダー作を録音するスタジオに居合わせたことがある。その際、テリーは吹き込んだ結果をメンバー全員で聴いている最中、突然思いついたように「オーヴァーダブだ」と言ってあれこれ愉しそうにサウンドを作り込んだ(陳の作品『離峰時刻 Off Peak Hours』にその成果が収録されている)。もとよりエレクトロニクスの音世界が好きな人なのだ。

デッドホースによれば、なにも台湾の電子音楽が日本やアメリカと異なるわけではないという。soundcloudやbandcampのヘヴィユーザーは多いし、そのような中で他国の電子音楽への接点が普通にある。

だが、やはりNCSのサウンドは独特だ。テリーの技巧的に制御されたサックスは人の息遣いであり、それが電子と共棲し、都会的でも楽園的であるように融合し、気持ちよさとともに刺激的な世界を生み出している。紛う方なく現代のものでありながら懐かしささえ感じさせるものでもある。過激や極端へと安易に走り出さないことも、サウンドの強さに貢献しているのかもしれない。

そして本盤では台湾ラッパーの賴品丞(PiNkChAiN)、茅睿(TenderG)、LEO37、そして歌手の林理惠(マーズ・リン)のヴォイスが挿入され、ことばという地域性が音楽へとメタモルフォーゼしている。アジアの異なる言語を音楽の鼓動へと重ねる手法は、テリーや林が『爵士詩靈魂夜 A Soulful Night of Jazz Poetry』において発展させたものだ。

なお、林は<Call Us By Our Names>において「春が来た/春が来た/どこに来た」と日本の童謡<春が来た>を引用してみせもする。これは『爵士詩靈魂夜』に収録された<Should You Ask My Name>を発展させたものだ。台湾では戦後の白色テロ時代(二・二八事件から戒厳令が解けるまでの間)、国民党政府によって多くの罪なき市民が投獄された。ここで林は、4人の女性の犠牲者たち、とくにこのために殺された施水環と丁窈窕が残したことばを口にしているのである。もとより、これらの曲はニーナ・シモンがアフロアメリカンの女性たちをモチーフにした<Four Women>に触発されたものだった。LEO37も怒りとともにことばを放つ。すなわち、本盤におけることばとは、地域性を霧消させるのではなく、拡張し、また異なる時代や社会との橋渡しになりうるものなのだ。

テリー曰く、デッドホースこそ台湾ベストのエレクロニック・ミュージシャンであって、その理由として、台湾の電子音楽シーンでは珍しく楽器を操りジャズも通過した者であることを挙げる。それも1960年代のフリージャズである。それゆえかれは独特で強靭なのだ、と。

初作『Flow, Gesture, and Spaces』と比較すると、本盤はデッドホースの繰り出すビートやテリーの融通無碍なサックスでさらにアグレッシヴなものになっている。またテリーの放った音をデッドホースがサウンドに戻し、その結果、テリーは別のテリーと共演している。これは進化した方法論なのである。

じつは初作リリースの直後に東京でNCSのライヴが企画されていた。コロナ禍により来日ツアー自体が中止を余儀なくされたのだが、おそらく近い将来に実現することもあるだろう。その際には、ライヴ感のある初作に近いステージとなるのか、それとも本作を踏まえた別のものとなるのか、それを見極めることも楽しみのひとつにちがいない。

BY Akira Saito 齊藤聡
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