2020年10月3日、台湾・台北流行音楽中心にて第31回金曲獎(GMA)の授賞式が開催された。
台湾政府が主催し、年に一度流行音楽を各部門毎に表彰する本イベント。今年も例年に違わず、言語や性別、歌唱や演奏、製作陣など全29部門に分かれてミュージシャンや作品がノミネートされた。
式典のオープニングセレモニーでは、台湾語シンガーの許富凱、原住民族からアミ族の舒米恩や馬蘭吟唱隊、パイワン族の葛西瓦など各ジャンルの代表歌手らが勢揃いして「生命力」をテーマにした歌唱パフォーマンスを披露してイベントがスタート。司会の魏如萱Waa Weiを中心にイベントは進んでいった。
今年の金曲獎の見どころとして特に注目されていたのは、計8部門にノミネートされていたパイワン族シンガーの阿爆(阿仍仍)だろう。実際、彼女は年度楽曲賞、最優秀原住民語アルバム賞、ひいては年度アルバム賞の3部門で受賞。まさに今年の顔と言えるほどの大活躍を見せた。受賞について、壇上で彼女は「皆さんには理解し難いものを聴いてくれてありがとう。アルバム『kinakaian 母親的舌頭』を通して、少数民族の生活をたくさん理解してもらえたら幸いです。作品を聴く中で、私たちは対話ができます。少し多くのことを理解し、誤解を少しでも減らすことができるでしょう」、「(年度楽曲賞の『Thank You 感謝』について)この曲は看護師の友人たちに書いた曲です。彼・彼女らはいつでも私たちを守ってくれ、今我々が自然に過ごしているのも日常を犠牲にしてくれている人がいるからなのです。日常で、是非そういう人たちに優しくしてあげてください。ありがとうございました」、「音楽はとても楽しいことです。言語による制限があるものでもなく、音楽を聴いたら身体が踊り出すのと同じくらい制限がなく自由なものなんです」と、たくましい表情でコメントした。
また、謝銘祐は最優秀賞作詞家賞と最優秀シングルプロデューサー賞、客家語シンガーの米莎(Misa)は最優秀客家語ボーカル賞と最優秀客家語アルバム賞と、それぞれ2部門で受賞。米莎は、「このアルバムについて感謝したい人はたくさんいます。皆さんこのアルバムを是非買ってください。今のところこのアルバムを買った人の中で、返品したいと行った人はいません!」と、笑いを誘う場面もあった。
さらに、今回のノミネートからは、大竹研が演奏部門の最優秀作曲家賞を、尺八、チェロ、ピアノからなる男性奏者ユニットKOBUDO古武道が最優秀編曲者賞を受賞した。大竹研は、客家語シンガーの林生祥率いるバンド生祥樂隊と東京中央線に早川徹と共に参加するギタリストでもある。授賞式では、「僕と縁のある全ての人にありがとう!」とコメント。今回はアコースティックギターでのソロインストアルバム『Ken』からの楽曲「Okinawa」に賞が送られたが、実は同じく今年の受賞作である米莎のアルバム『戇仔船』にもギターで参加しており、今回の受賞を機に更なる台湾での精力的な音楽活動が期待される。
また、式の司会を務めていた魏如萱も最優秀国語女性シンガー部門で受賞。2005年の金曲獎でノミネートされて以来、幾度も数々の部門でノミネートされてきたものの、何度も涙を飲む結果に終わってきた。そんな彼女が、今年初めての受賞。受賞が発表された際には、会場から大きな歓声が起こり、彼女も涙を流しながら歓喜で叫ぶ姿が印象的だった。身の回り全ての人に感謝を述べた後に、「今の自分にさせてくれて皆さんありがとうございます。今回が私とっての初めての金曲獎受賞ですが、1回目があれば2回目もある、2回目があれば3回目もあると願っています」と、涙と笑顔が入り交じった表情で喜びを伝えた。間違いなく今回の式典の名場面の一つになったであろう。
特別貢獻獎を受賞したドラマーの黃瑞豐も忘れてはならない。今年70歳を迎えるジャズドラマーの黄瑞豊は、過去50年にわたる彼の音楽人生において、100,000曲を超えるレコーディングに参加してきており、今なお、台湾の若いミュージシャンに対して影響力を持ち続けている人物である。その長年の功績が今回の受賞の決め手となった。受賞に際して、「どんな楽器専門の音楽職人であるとしても、一生懸命に努力を続けていれば必ず評価されるはずです。今回の賞は、我々すべてのミュージシャンが受けた評価です、なので今回の受賞は一人一人すべてのミュージシャンに捧げたいと思います」とコメント。未だに音楽業界の第一線でプレイし、慕われている彼の言葉は、台湾のミュージシャンに大きな活力を与えたことだろう。
また、授賞式の合間には老若男女や属性を問わず、多くのミュージシャンがパフォーマンスを披露し、授賞式でなく音楽の祭典としても大成功に終わった。様々な角度から音楽を分類し、細かい視点から評価を与える台湾の音楽式典。2020年10月31日(土)には、今回の金曲獎と同じく台北・台北流行音樂中心にて、第11回インディーズ音楽アワード「金音創作獎」が開催される。そこでは一体どんな笑顔が見られるのか。すでに期待を高めずにいられない。
第11回金曲獎の様子はこちらから→https://www.youtube.com/channel/UC_r0QUJ6T4ZLaadqQcaA7qw/videos?view=0&sort=dd&shelf_id=1
第31回金曲獎 流行音樂部門受賞者一覧
■年度アルバム賞
《kinakaian 母親的舌頭》 / 阿爆(阿仍仍)
■年度楽曲賞
『Thank You 感謝』/阿爆(阿仍仍)
■最優秀中国語アルバム賞
愛的呼喚/王若琳
■最優秀台湾語アルバム賞
『裝潢』/濁水溪公社
■最優秀客家語アルバム賞
『戆仔船/THE SHIP OF FOOLS』/米莎
■最優秀原住民語アルバム賞
『kinakaian 母親的舌頭』/阿爆(阿仍仍)
■最優秀MV賞
紅 /告五人﹙MV監督:殷振豪﹚
■最優秀作曲家賞
余佩真/「昏你 feat.乱彈阿翔」
■最優秀作詞家賞
謝銘祐/『路』
■最優秀編曲者賞
KOBUDO 古武道/「戰」
■最優秀アルバムプロデューサー賞
陳珊妮/『Juvenile A』
■最優秀シングルプロデューサー賞
謝銘祐/『路』
■最優秀中国語男性ボーカル賞
吳青峰
■最優秀中国語女性ボーカル賞
魏如萱Waa Wei
■最優秀台湾語男性ボーカル賞
蘇明淵
■最優秀台湾語女性ボーカル賞
朱海君
■最優秀客家語ボーカル賞
米莎
■最優秀原住民語ボーカル賞
盧靜子
■最優秀バンド賞
滅火器(楊大正 Sam、鄭宇辰 ORio、陳敬元 JC、柯志勛 KG)
■最優秀ボーカルグループ賞
Chick en Chicks(蔡奇龍; Kartina Flavia Hai)
■最優秀新人賞
持修
■演奏部門 最優秀アルバム賞
『Ciao Bella』/蘇聖育; 林冠良; 曾增譯
■演奏部門 最優秀アルバムプロデューサー賞
非/密閉空間/『Flow, Gesture, and Spaces』
■演奏部門 最優秀作曲家賞
大竹研/『Okinawa』
■最優秀ジャケットデザイン賞
何佳興(デザイナー)/『海光之聲』/盧葦
■最優秀歌唱録音アルバム賞
『少年 The Younger Me』/周華健
(レコーディング:鄧緯聖、洪浚程/ミックス:林正忠、王俊傑(小K)/マスタリング:孫仲舒)
■最優秀演奏録音アルバム賞
鍾興民作品集 Initial Value/鍾興民(映画音楽作曲家)
(レコーディング:李岳松、王家棟/ミックス:鍾興民/マスタリング:Bernie Grundman)
■審査員賞
G.E.M.鄧紫棋 / 『摩天動物園』
■特別貢献賞
黃瑞豐