音楽評論家関谷元子が語る第32回金曲奨授賞式

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台湾で最も重要な音楽賞、金曲奨が開催された。

コロナの影響でノミネートから授賞式までがいつもより開いたが、無事8月21日に行なわれた。今回は、27部門、1499枚のアルバム、21349曲の中から、83人の審査員が3ヶ月の時間を費やして選定されたという。

一言でいって、大仰さなくテンポ良い印象。

金曲奨は、発表カテゴリーが多いので時間がかかるが、今年は、受賞者発表もゲストのパフォーマンスもさくさく進み、4時間強が長いという印象は全くなかった。

また、以前の台北アリーナとは違い、台北流行音樂中心で行なわれたためか、大掛かりなセットは鳴りを潜め、余計なものがない印象。むしろ黒とゴールドが印象的なシックなデザインが大人のテイストで威厳も感じさせた。今回は、歌謡的ショウアップというより、台湾音楽の素晴らしさ、多様性をちゃんと見せよう、という姿勢があったのでは、と思う。

以前、東京の台湾文化センターで金曲奨を特集したトーク・イベントを2日間にわたって行なったことがある。審査委員長をつとめたことのある倪重華(ニー・チェンホア)氏に金曲奨の歴史や審査のシステムなどをお話いただき、アーティスト・ゲストとして、キング・オブ・ロックの伍佰(ウーバイ)とヒップホップの先駆けの一人であるMiss Koがゲストで来てくれた。

その時に倪さんが話してくれたことで、とても印象に残っていることがある。まず、審査員全員が会った時に、委員長は、今年はどういう選考基準で行きたいなど、しっかりとしたヴィジョンを伝えないといけないということ。そして、音楽そのものを評価する、売上げやチャートといった数字はあまり関係ないと。

こんなことが頭に残っていただけに、今年の審査員長である鍾成虎(タイガー・チュン)のことを想いながら金曲奨を見進めた。タイガーさんは、優れたギタリストとして多くのアーティストのサポートもし、陳綺貞(チア・チェン)、盧廣仲(クラウド・ルー)など素晴らしいアーティストをプロデュース&マネジメントしてきた。彼が、どういう金曲にするのか、とても楽しみだった。

親交のあるタイガーさんだけに、多少は彼の性格を知っている。アーティストに対する愛情、音楽への真摯さ、そして決して派手ではない…そんなことを想うと、まさに今年の金曲奨は、タイガーさんの姿勢がそうさせたのかな、と思った。

タイガーさん続きだが、彼のアーティストであるクラウド・ルーは、最優秀楽曲賞を受賞した。ノミネート曲の中で、一番しっかりとした抒情的でポップなメロディをクラウドの素晴らしいヴォーカルで聞かせるこの曲、正統ポップスの受賞だった。

ちなみに、これはクラウド本人から聞いたが、所属アーティストがノミネートされた部門には審査員は関われないとのことでした。

今回の金曲奨、結果からいうと、毎年ある「今年は誰誰の年だったね~」と言ったことはなく、実際、審査も拮抗したようで、最多受賞者は、曹雅雯(オリヴィア・ツァオ) 、田馥甄(Hebe) 、杜振熙(トー・チェンシー) 、五香放克樂團(ザ・スパイス・キャビネット)で、3つずつ。桑布伊(サンブーイ) が二つ、後は一つずつという結果だった。

最初のプレゼンターとして出てきたのが、林有嘉(ヨガ・リン)だ。芸術性ある表現をし高い評価を得てきている彼が静かに紹介したのが、作詞賞と編曲賞。

作詞賞は、ヒット曲を多く出してきたプロの作詞家、葛大為(グー・ダーウェイ)。そして編曲賞は、鍾興民(ベイビー・チュン)。あの紅螞蟻合唱團のメンバー・・・と言ってもご存じのかたいらっしゃるだろうか。そして、彼の代わりに受賞したのが、歌手のオリヴィアだった。

オリヴィア・ツァオは、創造性あるグループ張三李四のリーダー、張三(ジオン・チャン)がプロデュースしたアルバム「自本」で、今回新人賞に輝いた?特(ホワイト)をフィーチャーした雰囲気ある曲を作ったりと、台湾語の新しい地平を見せた作品をリリースした。裏方の評価・・・そういう印象を持つ発表が最初に来た。

台湾語女性歌手賞は、オリヴィアが受賞。そして男性シンガー賞を受賞したのが、許富凱(ヘンリー・シュウ)だ。涙を浮かべ、7年ノミネートされ、やっと獲れた、と感激ひとしお。ヘンリーの今回の「拾歌」はカヴァー・アルバムで、本当に歌が上手なので、江蕙の曲「祝福」などはたまらない。彼の日本歌謡好きが高じて山口百恵の「さよならの向こう側」も入っている。

金曲奨といえば、やはり何年か前までは、華語のカテゴリーが中心で華やかで、と言った印象が強かった。もちろん今も、スター!といった人たちはこのカテゴリーに出てくることは多い。が、ここ数年で、台湾語、原住民語、客家語のカテゴリーでもサウンドが俄然面白くなった。インスト部門のレベルも高く、ここが台湾音楽に厚みをつけている。

たとえば、原住民語アルバム賞のノミネートされたアーティストを見てみると、

シタールなども聞こえてくるブルースの達卡鬧(Dakanow)、民俗的なものからロックンロールまでの謝永泉(シエ・ヨンチュエン)、R&Bのžž瑋琪(ウェイチー)、サイケな感じが魅力のバンド漂流出口、そして、原住民音楽の魅力を壮大に伝える桑布伊(サンプーイ)と個性もサウンドもまちまちだ。

授賞式、最後の方で、華語男性歌手賞を受賞し、華語アルバム賞もとったのが、ヒップホップの杜振熙(トー・チェンシー)。以前インタヴューをした時、とても知的で静かな印象を持った。歌手賞をヒップホップ・アーティストが再び受賞、ということで、ここ数年盛り上がってきたヒップホップの波は定着したと認知されることになった。

華語女性歌手賞は、田馥甄(Hebe)。もはや元アイドルなどと呼ぶのは失礼なほどに、風格、貫禄があり、出すアルバムもポップと前衛のバランスが素晴らしく、まさに、華語ポップスのデイーヴァと言えるたたずまいだ。

そして、今回、受賞の合間合間に行われるパフォーマンス、これがどれも素晴らしかった。そして、見事に、台湾音楽の多様性を見せるものになっていた。

オープニングで登場したのは、去年最優秀楽曲賞とアルバム賞を受賞した阿爆(アバオ)。白いドレスに身を包んだダイナミックなパフォーマンスのアバオを支えるのは、原住民の伝統的なサウンド。メドレーの最後は、エレクトリックなアレンジの去年の最優秀楽曲の「感謝」で華やかに。

今や台湾最高のバンドFire-EXは、親しみやすいメロディを持つロックを安定のパフォーマンスで。彼らが優れたライヴ・バンドであることを感じさせるように、バックには聴衆の顔が映る。その後には、これまでの台湾の音楽シーンを飾ってきたバンドたちの紹介映像。台湾音楽において多くのバンドがいかに貢献してきたかを感じさせる。

賞を渡す係、プレゼンターは、たとえば原住民語賞関係だとMatzkaといった風に同じ原住民から選ばれることが多い。そんな中、今回驚かせたのは、クラウド・ルーが楽曲賞を獲った「刻在我心底的名字」が主題歌になっている映画「君の心に刻んだ名前」に主演した二人、林柏宏(リン・ボーホン)と陳昊森(エドワード・チェン)が出たことと、もしかしたらこの夜最も大きな拍手を得たかもしれない、最後に、阿爆(アバオ)ともに出た、東京オリンピックでの重量上げ金メダリスト郭婞淳 (グオ・シンチュン) と柔道の銀メダリスト楊勇緯(ヤン・ヨンウェイ)だった。ちなみに、選手二人共、原住民族。

パフォーマンスの中でも、完成度が高かったのが、YELLOW黄宣、そして彼とデュエットした孫盛希(ShiShi)ではないか。黄宣の趣味だろう、古いモノクロ映画を観ているような画像処理で、ビート感あるジャズファンク~R&Bを見せ、圧倒した。

2007年に男性歌手賞をとった韓国系アメリカ人シンガーの李玖哲(ニッキー・リー)も熱唱。台湾在住の外国人のコメントを流しながら、海外にいる家族や大切な人に会えないという自らの想いも込めて、名曲「世界唯一的妳」(曹格=ゲイリー・ツァオの曲)とサム・スミスの「レイ・ミー・ダウン」を歌った。完結にメッセージを伝え感動させる演出が良かった。

サプライズでパフォーマンスをしたのが、バンド魚丁糸(ユイディンミー)だ。2016年に、蘇打緑(ソーダグリーン)という名で賞を総なめした彼らが、その後の休止期間を経て、魚丁糸として登場した。今年の曲「終點起點」の中に2004年のデビュー曲をはさみ、音楽に感謝をしつつ今新たに歩き出すんだ、という意志を伝えた彼らのパフォーマンスは、瑞々しさは残しつつ、成熟し説得力あるものだった。

そして、最後、最優秀アルバム賞に輝いたのが、原住民シンガー桑布伊(サンプーイ)。なんと、この賞が設定されて5年で2回目の受賞。

金曲奨は、生でYouTube配信され、アーカイブも残し、世界の誰でもが見られる。

今回の金曲奨は、それをとても意識した、かつ台湾の音楽をあまり知らなくても、その多様性を感じることのできるわかりやすい作りにもなっていたと思う。

そういう意味でも、原住民文化とモダン・サウンドを融合し、大きなスケールで彼自身の圧倒的なヴォーカルで魅せるサンプーイは、台湾の音楽文化の素晴らしさを世界にアピールするものになっていた。

とともに、毎年、台湾音楽シーンに貢献してきたアーティストなどが選ばれる、その名も特別貢献賞には、台湾のボブ・ディラン、羅大佑(ロー・ターヨウ)が選ばれ、5人のアーティストが彼の曲のトリビュート・メドレーを歌った後、スピーチ。過去の話をする人も多いこの賞だが、羅は、これからやるぞ!と言った。

たくさんのシーンで、台湾音楽の盛り上がりを確信する金曲奨だったと感じている。

作者